コラム

韓国政府、ポストコロナ対策として「国民皆雇用保険」の導入に意欲

2020年05月20日(水)14時20分

フライドチキンの店や食堂などの生計維持型自営業を選択した多くの人は「売れなかった残りものは家族で食べればいい、60歳まで頑張れば高額ではないが公的年金ももらえるので何とか生活はできるだろう」というシンプルでポジティブな考えで店舗をオープンしただろう。しかしながら、世の中はそんなに甘くなかった。ソウル市の調査によると2019年現在の自営業者の5年生存率は25.7%に過ぎない。自営業者の生存率が低いのは、特定分野に店が集中し、供給が需要を上回っているからである。KB金融持主研究所の報告書によると、韓国の2019年2月時点のフライドチキンの店舗数は約8万7千店に達する。日本のコンビニ数5万5620店(2019年12月末)を大きく上回っている。平均的に4店舗のうち3店舗がつぶれて、失業者に転落した。雇用保険に加入していないので、失業しても失業給付もない。残るのはお店を開くために金融機関などから借りた借金のみである。

自営業者は任意的に雇用保険への加入が可能

韓国政府は自営業者の再就職や生活を支援する目的で2012年から自営業者も任意で雇用保険に加入することを許可している。自営業者が雇用保険に加入すると、雇用者と同じく雇用安定事業、職業能力開発事業、失業給付による支援が受けられる。加入対象は従業員がいないか従業員数が50人未満の事業主で、保険料率は2.25%と労働者の保険率1.6%(通常の保険料率は労働者0.8%、事業主0.8%)に比べて高く設定されている。保険料は雇用労働部長官が告示する7等級の「基準報酬」のうち、自営業者自らが選択した基準報酬に保険料率をかけて計算する。失業給付を受給するためには原則として1年以上の被保険者期間が必要で、廃業日から遡って6カ月間赤字が続いたこと、廃業日から遡って3カ月間の平均売上が前年の同じ期間に比べて20%以上減少したこと等の要件を満たす必要がある。この条件をクリアすると、選択した基準報酬の6割に該当する金額が失業給付として支給される。

自営業者の雇用保険料と給付額
Kim200520_chart3.jpg

自営業者の雇用保険の加入期間別給付日数
Kim200520_chart4.jpg

さらに、政府や自治体は零細自営業者に対して雇用保険の保険料を助成する制度をスタートした。中小企業ベンチャー部は2018年から従業員がいない自営業者のうち、「基準報酬」が1~4等級に該当する者に対して、保険料の30%~50%(1,2等級は50%、3,4等級は30%)を助成する制度を実施している。また、ソウル市も2019年から従業員がいない自営業者の雇用保険料を30%助成(最大3年間)する制度をスタートし、段階的に対象者を拡大している(2019年4千人、2020年8千人、2021年1万3千人、2020年2万人)。このように、ソウル市で自営業を営んでいる従業員がいない自営業者の場合、中小企業ベンチャー部の助成制度とソウル市の助成制度を合わせて、最大80%まで保険料の助成が受けられる。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラの「ギガキャスト」計画後退、事業環境の逆風反

ワールド

ロシア、ウクライナで化学兵器使用 禁止条約に違反=

ビジネス

ドル一時153円まで4円超下落、再び介入観測 日本

ワールド

米、新たな対ロシア制裁発表 中国企業を狙い撃ち
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story