コラム

最低賃金の日韓逆転は遠くない?──2022年は両国とも引き上げを決定

2021年07月23日(金)19時09分

分析の結果、韓国と比べた日本の最低賃金の水準はアジア通貨危機の問題がある程度収拾された1999年以降縮小傾向に転じ、1999年の4.78倍から2022年には1.06倍まで縮まった(1997年はアジア経済危機によるウォン安の影響で日韓の最低賃金の差が拡大)。

現在はどうか。韓国の2021年の最低賃金(7月14日の為替レートで日本円に換算)すると約880円で、日本の全国加重平均額930円や、東京、大阪などの最低賃金を下回る。しかしながら、沖縄や九州地方よりは高い。実際、韓国の2020年の最低賃金(838円)は日本の27都道府県より高かった。日韓の最低賃金の引き上げ率を考慮すると、今後数年内に韓国の最低賃金が日本を上回る可能性が高い。

■日本円に換算した日韓における最低賃金の水準
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出所)日本:独立行政法人労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計 > Ⅳ賃金 > 図3最低賃金」、厚生労働省「地域別最低賃金改定状況」各年、韓国:最低賃金委員会「年度別最低賃金決定現況」より筆者作成

さらに、OECDが毎年発表している購買力平価(PPP)で換算した年間平均賃金は、2020年時点で韓国が41,960ドルで日本の38,515ドルを上回っている。購買力平価とはある国である価格で買える商品が他国ならいくらで買えるかを示す交換レートで、国際比較でよく使われる指標だ。

■購買力平価(PPP)で換算した日韓の年間平均賃金
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出所)OECD Data :Annual Average Wages

但し、韓国が日本より年間平均賃金が高いからと言って、生活の満足度が日本人より高いとは言えない。国連が3月19日に発表した「世界幸福度ランキング」2021年版によると、2018~2020年における韓国の幸福度の順位は世界62位で日本(56位)より低い。

幸福度は所得(一人当たりGDP)以外にも、社会的支援の充実度、健康寿命、人生の選択の自由度、寛容さ(1ヶ月以内に寄付をしたかなど)、社会の腐敗の少なさを反映して測定される。

従って、今後韓国政府は幸せの源は「所得」だけではないことを認識し、社会的支援を強化し人生の選択の自由度を高めるための政策を推進する必要がある。一方、日本政府はグローバル人材を獲得するなど労働力不足の問題を解決するためにも賃金水準の改善に力を入れなければならいだろう。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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