コラム

バラバラ死体事件に揺れるイタリア総選挙 ベルルスコーニ元首相がキングメーカーに

2018年02月08日(木)13時30分

バラバラ死体事件の報復?アフリカ出身の男性を次々と狙い撃ちする事件が発生(2月3日、伊マチェラータ) REUTERS

<イタリア中西部で発見された18歳女性のバラバラ死体事件が3月4日投票の総選挙の行方を左右するかもしれない。地中海を渡ってやって来る難民に対する嫌悪と排外主義がますます強まっているからだ>

[ロンドン発]1月29日昼過ぎ、ローマ出身のパメラ・マストロピエトロさん(18)はイタリア中西部マチェラータにあるリハブ(薬物依存症回復施設)からスーツケース1つに身の回りのものを詰め込んで抜け出した。お金や携帯電話、身分証明書は施設に預けたままだ。

昨年10月から施設で暮らしていたため、ヘロインが欲しくて仕方なかった。ロングヘアのパメラさんはスリムでキュートな女性。通りがかった中年男の車に乗り込み、ガレージに敷かれた毛布の上で若い体を売った。ヘロインを買う、たった50ユーロのために。

翌朝、中年男はパメラさんを車に乗せ、最寄りの駅まで送った。てっきりローマに帰ったと思っていた彼女は31日、道路脇に放置された2つのスーツケースから無残なバラバラ死体となって発見される。首や臓器はまだ見つかっていない。

パメラ・マストロピエトロさん(ラウラ・ボルドリーニ下院議長のツイッターより)


2日後、難民申請が認められず、警察に出頭を求められていたナイジェリア人男性が逮捕され、自宅から血の着いた衣服や肉切り包丁、キッチンナイフが発見された。男性は「女が薬の過剰摂取で死んだので驚いて逃げ出した」と犯行を否認した。

難民への逆恨みが爆発

捜査当局はヘロイン密売に関係していたとみられるもう1人の行方を追っている。ナイジェリア男性は殺人で立件できず、釈放される可能性もある。衝撃的な事件は思わぬ方向に急展開していく。

2月3日、マチェラータでナイジェリアやガーナ、マリ出身の男性5人、女性1人がイタリア国旗をまとったスキンヘッドの男(28)に次々と銃撃された。幸い命に別状はなかったが、1人は重体。男は中道左派の与党・民主党支部にも発砲した。

現行犯逮捕される前、スキンヘッドの男は「イタリア万歳」を叫び、ファシスト式敬礼をした。「かわいそうなパメラの弔い合戦だ」と供述。自宅からはアドルフ・ヒトラーの『わが闘争』が見つかった。昨年の地方選で右派・北部同盟から立候補し、落選していた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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