コラム

熱に浮かされたように強硬離脱に向かう英国 日系企業は最悪シナリオに備えよ

2018年10月03日(水)16時00分

強硬離脱を訴えたジョンソン前外相に聴衆は熱狂 Toby Melville-REUTERS

[英イングランド中部バーミンガム発]バーミンガムで開かれている与党・保守党の党大会は強硬離脱(ハードブレグジット)派の決起大会のような熱気に包まれた。欧州連合(EU)からの離脱交渉に暗雲が立ち込める中、大会3日目の10月2日、強硬離脱派の頭目ボリス・ジョンソン前外相(54)が登壇すると、熱狂的な「ボリス」コールが沸き起こった。

kimura20181003124701.jpg
メイ首相を激しく糾弾するジョンソン前外相(筆者撮影)

ボリスはトレードマークのボサボサの金髪を逆立てながら「チェッカーズ(テリーザ・メイ首相のEU離脱案)は詐欺そのものだ。もし我々が選挙民を欺くなら、不信感を増幅させることになる」とメイ首相を激しく糾弾した。「チェッカーズでは英国の主権を取り戻すことはできない。手錠をはめられてブリュッセル中を引き回されるようなものだ」

【関連記事】「合意なきEU離脱」に突き進む英国 労働党は2回目の国民投票も選択肢に 党内では「内戦」が激化

メイ首相の離脱案

メイ首相は先の非公式EU首脳会議で(1)英国・EU間の「人の自由移動」は終結させる(2)アイルランドと英・北アイルランド間に「目に見える国境」を復活させない(3)製造業のサプライチェーンを寸断しないようEU離脱後も財については事実上、無関税で障壁のない自由貿易圏を保つ――ことを柱にする離脱案を拒否された。

kimura20181003124702.jpg
EUから突き放され、崖っ縁に立たされているメイ首相(筆者撮影)

首相公式別荘チェッカーズで協議されたことから「チェッカーズ」と呼ばれるようになったメイ首相の離脱案は、英国がEUと同じルールブックを作って離脱後もEUとできるだけ摩擦のない通商関係を続けようというのが特徴だ。しかし離脱していく英国を特別扱いするとEUは一気に崩壊に向かうという危機感と、英国への不信感がブリュッセルに渦巻く。

「強硬離脱党」の様相

保守党の草の根支援団体コンサーバティブホームが主催したイベントには1時間半以上前から長蛇の列ができ、1000人超が詰めかけた。英国政治を間近でウオッチするようになって10年以上が経つが、こんな熱狂に出くわしたことはない。

会場の最前列にはデービッド・デービス前EU離脱担当相、プリティ・パテル前国際開発相、イアン・ダンカン・スミス元党首ら強硬離脱派の中心人物が顔をそろえ、穏健離脱(ソフトブレグジット)に大きく舵を切るメイ首相ににらみを利かせた。党首選の予行演習のように見えた。

kimura20181003124703.jpg
会場の最前列に陣取った強硬離脱派のデービス前EU離脱担当相(右端)ら(筆者撮影)

強硬離脱派の集会はどこも超満員。並んでも会場に入れず、閉め出されることも珍しくない。保守党の中に「ハードブレグジット党」が出現したような雰囲気だ。政治家も支持者も「合意なき無秩序離脱」という交渉破綻リスクを顧みず、熱にうかされたように強硬離脱へと一目散に突き進んでいる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story