コラム

ワクチン接種「24時間態勢」で集団免疫獲得に突き進むイギリスの大逆転はなるか【コロナ緊急連載】

2021年01月16日(土)13時25分

臨時のワクチンセンターとなった英リッチフィールド大聖堂で接種を待つ人たち。薬局での接種も始まった(1月15日、バーミンガム) Carl Recine-REUTERS

<コンビニ並み24時間無休の接種を約束し、最悪の場合は議会閉鎖や軍の治安出動まで想定して走るイギリスに、日本は追い抜かれつつある?>

[ロンドン発]「構えー、狙えー、撃てーッ!!」――歩兵銃を構えた複数の兵士が一列に並び、向かってくる敵に対して同時に発砲する。弾薬を込めた後列の兵士と入れ替わって再び敵に同時発射し、これを繰り返す戦法を「一斉射撃」という。

新型コロナウイルスに対するイギリスのワクチン集団予防接種を見ていると、まさにこの戦法が思い浮かぶ。ボリス・ジョンソン英首相は午前8時から午後10時までフル回転している病院や診療所、ワクチンセンターでの接種を日本のコンビニエンスストア並みの土・日曜なしの24時間態勢に拡充すると約束した。

台湾やベトナム、シンガポール、ニュージランドのような「封じ込め」に失敗したイギリスはすでに336万回分へのワクチン接種を行った。2月15日までに70歳以上や介護施設職員、医療従事者、社会福祉士計1500万人への接種を終え、3月末には50歳以上を全員免疫する計画だ。

感染者の重症化と死亡を防ぎ、医療崩壊を食い止めるため1日の接種能力を現在の24万8千回から50万回に倍増する。ドラッグストアチェーン「ブーツ」でも接種が始まり、全国展開するスーパーマーケットチェーン「アスダ」も店内の薬局を接種場所にする用意があると手を挙げた。

イギリスの基本戦略は(1)封じ込めフェーズ=水際作戦や感染者の隔離で感染をシャットアウトする(2)遅延フェーズ=社会的距離政策や都市封鎖で感染拡大のスピードを遅らせ、医療崩壊を防ぐ(3)研究=政府の支援によりワクチンや死亡・重症化を防ぐ治療薬の研究開発を急ピッチで進める──だ。

しかし、それでも感染爆発を抑えられない場合(4)緩和フェーズ=人口の最大80%が感染、病院は手術を中止して緊急トリアージを実施、退職した医師や看護師を動員、議会は閉鎖、軍の治安出動──を想定している。

コロナウイルスが原因とみられるロシアかぜで王位継承が変わる

人口規模が大きく多民族の移民社会を抱えるイギリスは当初から感染者とワクチンで免疫した人で感染拡大を止める防波堤を築く集団免疫戦略を描いていた。感染症数理モデルの世界的権威、インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授は英日曜紙サンデー・タイムズにこんな見方を示している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、従業員の解雇費用に3億5000万ドル超計

ワールド

中国の産業スパイ活動に警戒すべき、独情報機関が国内

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story