コラム

日立製英高速列車の亀裂は800車両 応力腐食割れが原因か 日本の製造業に打撃

2021年06月02日(水)19時05分
日立製作所製の高速列車800系

車両本体下のボルスタに亀裂が見つかった日立製作所製の高速列車800系(筆者撮影)

<「ドル箱」の高速列車の運休で運行会社は大幅な減収必至。「鉄道の日立」は信頼を損ねたが、問題はそれだけではない>

[ロンドン発]イギリスで5月8日「鉄道の日立」のフラッグシップ、高速列車800系に亀裂が見つかった問題で、車両本体下のボルスタに亀裂の入った車両は800車両にのぼることが地元の鉄道記者の証言で分かった。応力腐食割れが疑われているが、根本的な原因は依然として分かっておらず、修理にどれだけの期間がかかるのか見通しは全く立っていない。

日立レールの説明では今年4~5月、ボルスタの安定増幅装置ヨーダンパー・ブラケット接続部と車両本体を持ち上げる時に使用するリフティングポイントで亀裂が見つかった。リフティングポイントの亀裂は全編成の約50%、ヨーダンパー・ブラケット接続部の亀裂は約10%で見つかった。近郊輸送用車両385系の亀裂ははるかに少なかったという。

kimura210602_hitachi1.jpg

筆者作成

筆者が関係者から入手したヨーダンパー・ブラケット接続部の写真を見ると、亀裂の深さは15ミリに達していたり、長さは28.5センチに及んでいたりする。

不眠不休で車両を点検している日立の車両基地を取材した地元の鉄道記者フィリップ・ヘイ氏は筆者に「800車両で亀裂が見つかったと聞かされた。亀裂の大きさはさまざまだが、小さくても列車を走行させているうちにどんどん大きくなる」と語る。

kimura210602_hitachi2.jpg

筆者が関係者から入手したヨーダンパー・ブラケット接続部に入った亀裂

kimura210602_hitachi3.jpg

同上

亀裂は塗装や汚れに隠れて肉眼では見えにくいため、専用の検査装置を使って亀裂があるかないかを慎重に点検しなければならない。ヘイ氏が見た写真ではリフティングポイントに入った亀裂もかなり長かったという。ヨーダンパー・ブラケット接続部とリフティングポイントの亀裂はいずれも英鉄道安全標準化委員会に「国家インシデント」として報告されている。

亀裂の原因について日立レールは「われわれは応力腐食割れと考えている。まず材料、次に天候や空気、水などの環境、三番目に金属にかかるストレスが要因として関係しているとみている。疲労亀裂ではない」と説明する。営業運転開始からわずか約3年半でこれだけ多数の車両の同じ箇所(ボルスタ)に亀裂ができた原因とメカニズムはまだ解明されていない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、いかなる対イラン作戦にも関与せず 緊張緩和に尽

ワールド

イスラエル巡る調査結果近く公表へ、人権侵害報道受け

ビジネス

利上げの可能性排除せず、経済指標次第=米シカゴ連銀

ビジネス

欧州インフレの軟着陸、可能だが確実ではない=IMF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story