コラム

ボリス・ジョンソン英政権、10月半ばまで議会閉会 「合意なき離脱」ごり押しのためのウルトラC

2019年08月29日(木)19時10分

この閉会の英語名は「Prorogation」。議会の会期終了を意味する。通常、議会は最長5年間(1年の会期が5回)続く。議会の開・閉会の権限を持つエリザベス女王が施政方針演説を行うことで、幕があく。終了時には、女王が上・下院で演説を読み上げる。

以前から、議会が合意なき離脱を阻止しようとした場合、ジョンソン首相が女王に対し会期を終了させるよう働きかけるのではないか、と言われてきたが、まさか本当にそんなことが起きるとは驚くばかりである。

政府の言い訳は

閉会について、首相はどのように説明しているかというと、10月14日、新政権としての「大胆で、意欲的な政策」を女王の施政演説で発表したいという。施政演説が「延び延びになって来た」という首相の言い分には一理ある。2017年の総選挙後に始まった現在の会期は、すでに2年以上となっているからだ。

しかし、本当の理由は合意なき離脱の実現を止めようとする下院議員の動きを停止させるためと言ってよい。

違法ではないが

議会を1カ月近く閉会状態にしておくのは、今まさに離脱に向けての最終議論を行おうとしている中で、非常に理不尽な動きに見えるものの、新たな会期が始まる前に1週間ほど閉会状態になること自体は珍しくはない。

この時期に各政党の党大会が開催されるのが慣習で、もともと、9月の第2週から10月7日ぐらいまでは休会になる見込みだった。

シンクタンク「インスティテュート・フォー・ガバメント」によると、野党勢力ができることはまだあるという。1カ月にわたる「議論停止」を避けたいならば、来週中に内閣不信任案を提出し、ジョンソン政権を崩壊させることだ。

内閣不信任案はどうなるか

来週、もし内閣不信任案が提出された場合、可決の可能性はあるだろうか。

政権側は「可決されない」と見ている。理由は労働党のジェレミー・コービン党首への反発だ。

不信任案がもし可決されれば、総選挙が行われるまで野党労働党が中心となる暫定政権が成立する見込みだが、その場合、首相になるのはコービン氏だ。労働党内左派系のコービン氏の首相就任を支持する保守党議員は、ほとんどいないだろうとジョンソン政権側は踏んでいる。

もし不信任案が可決されても、その後の総選挙の時期を決めるのは政府になる。

離脱が実現してからの総選挙(11月1日以降)になれば、ジョンソン氏率いる保守党が議席を大幅に増やすのは確実だ。

「どっちに転んでも、勝つ」、というシナリオを描いているのである。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story