コラム

コロナ禍と乗務員不足で日本に迫る「交通崩壊」の足音

2021年01月15日(金)19時05分

他の公共交通と異なり、タクシーは公共交通としての社会的認識が低いため自治体から支援が受けにくく、資金繰りが難航しているのではないかと思われる。また、地方のタクシー会社は家族経営であることが多く、あるタクシー関係者は「2020年は何とか耐えしのげたが、第3波で心が折れる地方のタクシー会社も多いのではないか」と懸念している。今は何とか雇用調整助成金で食いつないでいる状況の会社が多い。

乗務員不足、乗務員の高齢化ゆえに

公共交通はコロナ前から深刻な乗務員不足にも直面している。

福岡はバス網が発達し、生活の足として愛されている。それを担うのが西日本鉄道(西鉄)のバス事業で、日本最大規模と言われる。その西鉄が2020年春のダイヤ改正に伴い、45路線の減便実施という苦渋の決断をした。

生産年齢人口の減少や他業種との人材獲得の競争激化を受け、グループ合計で100人以上の乗務員が不足しているという。比較的運行便数が多く利便性の低下が限定的な都心部路線、他のバス路線および鉄道など他の交通手段での補完が可能な路線を対象に減便や縮小を行い、約40人分の解消と乗務員の労働負荷低減を行った。

乗務員不足はバスだけではなく、他の公共交通でも課題に上がっている。さらには、乗務員の高齢化も深刻だ。

もともとバスは大都市を除くほとんどの地域で赤字で、国、県、市町村から補助を受けて運行している路線が多く、儲からない路線は早くやめたいと思っている交通事業者も多い。またタクシーはウーバーなどのライドシェアが注目されているが、国による需給調整が行われ、ようやく雇用や賃金が守られるような性格の事業でもある。

路線バスは、通勤や通学目的での定期券収入で支えられているところが大半だ。コロナ禍で外出自粛が長期化し、大学や塾の授業はオンラインが定着してきている。乗務員不足による減便に加え、コロナ禍の利用者減少による減便も各地で増えていくだろう。また、もともと地方では少なかったタクシー事業者が、さらに少なくなってしまうという状況も考えられる。

このようにバスの本数が少ない、タクシーの数が少ない、など利用者が不便を感じる機会は増え、その傾向は今後いっそう顕著なものになるのではないかと危惧している。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story