コラム

改正道路交通法は高齢者の免許更新をどう変える? 「サポカー限定免許」より必要なこと

2022年06月15日(水)20時25分

警察庁の交通事故統計では、65歳以上が高齢者と定義されている。70歳以上75歳未満のドライバーには免許更新時に「高齢者講習」の案内が届き、75歳以上になると「高齢者講習」と「認知機能検査」を受けなければならない。

「認知機能検査」はこれまで「時間の見当識」「手がかり再生」「時間描画」の3項目だったが、これからは「手がかり再生」と「時間の見当識」の2項目に減る。

※「時計描画」は、時計を描き、指示された時間通りに針を書き込むことで空間把握能力を確かめる検査

これまで結果の判定は点数によって、3つのグループに分けられていた。総合点が49点未満の者が1分類で記憶力・判断力が弱くなっている人。49点以上76点未満の者が2分類で記憶力・判断力が少し弱くなっている人、76点以上の者が3分類で記憶力・判断力に心配のない人。

1分類の人については、認知症でないか医師の診断が必要だった。認知症と診断されると運転免許証が取り消し。そうでない場合には、2分類の者と同じ座学2時間・実車1時間の「高齢者講習(高度化)」を受講。そして3分類の人は、座学1時間・実車1時間の「高齢者講習(合理化)」を受けて免許を更新していた。

それが5月13日からは、「認知症のおそれがある者」「認知症のおそれがない者」の2つだけになった。前者の場合はこれまでと同じく医師の診断が必要になる。

新たに始まった「運転技能検査」は、過去3年間に一定の違反歴がある人のみが対象となる。合格できなければ免許の更新はできない。"一定の違反歴"は以下の通り。

・信号無視
・通行区分違反
・加速超過
・横断等禁止違反
・踏切不停止・遮断踏切立入
・交差点右左折方法違反、交差点安全運転義務違反
・横断歩行者妨害

変更前の免許更新では認知機能の低下に焦点が置かれてきた。今回の改正では、認知機能だけでなく、より身体機能の低下に着目した対策が加わっている。

これまでは認知機能検査で医師に認知症だと診断されない限りは免許の更新が可能だった。認知症ではないが運転が危うい高齢者の家族やその周囲の人は、返納してほしいと思っていても本人の自主返納を待つしかなかった。

今後は運転技能検査で更新の可否が決まり、制度の中でドライバー卒業を告げられるようになった点が改正の大きなポイントと言える。

「サポカー限定免許」よりも限定すべきこと

また、今回の改正で「サポカー限定免許(安全運転サポート車等限定条件付免許)」制度が導入された。

高齢ドライバーは任意の申請により、普通免許で乗れる車種を「衝突被害軽減ブレーキとペダル踏み間違い時加速抑制装置(性能認定)」または「衝突被害軽減ブレーキ(保安基準)」搭載のサポカーのみに限定することができる。

限定免許の対象となる車両は、サポカー補助金の対象車両とは異なるため注意しなければならない。具体的な車両は警視庁サイトで確認できる。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ガザ「大量虐殺」と見なさず ラファ侵攻は誤り=

ワールド

中韓外相が会談、「困難」でも安定追求 日中韓首脳会

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、今週の米経済指標に注目

ビジネス

米国株式市場=S&P横ばい、インフレ指標や企業決算
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story