コラム

「顔パス社会」は来るか?

2018年05月18日(金)19時30分

北京で開催されたグローバル・モバイル・インターネット・カンファレンス(GMIC)に展示された顔認証ソフト(4月27日) Damir Sagolj- REUTERS

<中国では顔認証システムが商店や改札でも使われようとしている。日本でも広がれば財布のなかの大量のカードはいらなくなるが、人々の抵抗感が強くて「顔パス社会」は到来しないかもしれない>

今年3月に中国から訪日した学者が「今回の出国管理は『顔パス』でした!」と言っていた。彼は中国の出国審査のところで顔認証の自動ゲートを通ってきたのである。

そのゲートは三段階になっていて、最初のゲートでは飛行機の搭乗券をセンサーに読み取らせ、次のゲートではパスポートを読み取らせ、最後のゲートで親指の指紋と顔を読み取らせる。するとパスポートの写真と、読み取られた顔の画像とが機械によって照合されて、出国手続きが完了する。

日本でも2010年から出入国管理における自動化ゲートがお目見えしている。その利用方法は、まず申込書を書いて、係員に渡し、その場で指紋を登録する。すると、それ以降の出国の際はパスポートと指紋を読み取らせるだけで自動的に完了する。

日本と中国の自動ゲートの方式を比較すると、日本のそれは登録時に係官が顔を確認したうえで指紋をその人物を確認するカギとして利用するのに対して、中国のそれは機械による顔認証によってその人物がパスポートに記載された人物と同じであるかを確認している。

こうして顔による本人確認ができるのであれば、たとえば飛行機のEチケットなんかもいずれ顔パスで取得できるようになるかもしれない。

Eチケットとは、航空券を航空会社のコンピュータ上の記録として保管しておくもので、乗客はパスポートやチケット番号やEチケット控えなどのカギによっていつでもチケットを取り出すことができる。もし顔認証技術によってパスポートと顔とをリンクすることができるのであれば、空港の端末の前に立つだけで搭乗券が出てくるようにすることができるだろう。

買い物も改札も顔パスへ

中国ではいま顔パスでいろんなことができるようにしようとする試みが始まっている。

ホームセンターの「百安居(B&T Home)」はネット小売大手のアリババと組んで昨年秋から上海と北京に「スマートショップ(智慧門店)」と称する店舗を5カ所開いたが、そこでは顔パスで買い物ができる。客はまず入口で機械に顔を読み取ってもらう。すると、客に番号が割り振られる。あとは各売り場で端末の前に顔を見せて操作すると、自分のバーチャルな「買い物かご」に商品が入っていく。ネット上のアリババのアカウントと結び付けておけば、顔を見せるだけで支払いまでできてしまう。

深センでは、地下鉄の2つの駅の改札機に顔認証の設備が置かれているという。目下、深センや上海の地下鉄では駅の改札でQRコードが使えるよう改造しているところだが、将来は顔と支付宝(アリペイ)や微信支付(ウィーチャットペイ)を結びつけることで、改札機に顔を見せるだけで通過できる仕組みを作ろうとしているらしい。ただ、現状では顔認証システムの反応速度や正確性が不十分であるため、実際に使えるようになるのはまだ先になるようだ(大洋網、2018年5月8日)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アリババ、1─3月期は売上高が予想上回る 利益は大

ビジネス

米USTR、対中関税引き上げ勧告 「不公正」慣行に

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ワールド

豪政府が予算案発表、インフレ対策盛り込む 光熱費・
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story