コラム

新型肺炎、中国経済へのダメージをビッグデータで読み解く

2020年02月27日(木)16時25分

武漢市も1月22日までは去年を上回る活発さで市内を動き回っていた。今にして思えば、この時点までの警戒心の欠如がその後大きな代償をもたらした。ただ、1月22日時点での新型コロナウイルス肺炎の患者数は湖北省で累計444人。昨日(2月25日)時点の日本の感染者数(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)は848人であることを思えば、1月22日時点まで武漢市民が新型コロナウイルスを甘く見ていたとしても責められない。だが、1月23日の封鎖とともに人々の移動は急減し、2月25日まで人々の移動状況はまったく回復していない。

marukawagraph2.jpg

人々の移動の活発さは交通運輸業の収入に直結するだろうし、飲食業にも密接にリンクしているだろう。小売業の売上とも関連性が高いに違いない。従って、人々の移動がこれだけ低調になると、これらの産業の売り上げも同様に低調になっていると思われる。

第一四半期はマイナス成長か

このほか、北京市、上海市、深圳市の状況も調べてみたが、広州市とほぼ似たような動きをしている。下の表では4つの都市について、1月24日以前とそれ以後に時期を分け、それぞれ2019年の同じ時期に比べて人々の移動がどれだけ増減したかを示している。

なお、下の表および前掲の図は、今年と昨年とを、旧暦で見た場合の同じ日によって合わせている。太陽暦にすると、2020年の旧暦の元旦は1月25日であるが、2019年の旧暦の元旦は2月5日である。従って、2020年の1月1日~1月24日に対応する2019年の同じ期間とは1月11日~2月4日の期間である。

marukawahyou.jpg

表に示したように、1月1日から24日までは昨年を2割前後も上回る活発さで人々が市内移動していたのに対して、1月25日から2月25日の期間は昨年を5、6割も下回っている。期間全体をとると、マイナス19~25%の落ち込みを示している。

となると、各都市の交通運輸業、宿泊・飲食業、小売業なども同じぐらい落ち込んでいる可能性が高い。これらの産業は中国のGDPの約16%を占めているので、それらがマイナス19~25%も減少すると、1~2月の中国のGDPは、他の産業はすべて昨年並みだと仮定しても、マイナス3~4%になる。

第1四半期の経済成長率を1.2%程度とする万博新経済研究院の予測は、中国のなかではかなり辛口の見立てであるが、主要4都市における人々の移動状況から推測する限り、1~2月の経済の落ち込みはもっと激しい。3月にはある程度回復するとしても第1四半期はマイナス成長になる可能性が高い。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイスアジア運営のファンド、取締役の個別面談義務化

ワールド

TikTok禁止法、クリエイターが差し止め求め提訴

ビジネス

中国、売れ残り住宅の買い入れ検討=ブルームバーグ

ワールド

豪が高度人材誘致狙い新ビザ導入へ、投資家移民プログ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story