コラム

突然躍進したBYD

2023年05月18日(木)14時00分

BYD「シーガル」の前で写真を撮る人々(4月19日、上海自動車ショー) Aly Song-REUTERS

<世界一のEVメーカーに躍り出た中国のBYDの、従来の自動車業界では考えられなかったような成長の秘密は何なのか。かつてトップだった日本車勢の凋落の原因は>

2022年はロシアとウクライナの戦争が勃発して世界経済は減速を余儀なくされたが、そうしたなかで急成長が続いているのが電気自動車(EV)である。国際エネルギー機関(IEA)の集計によれば、2022年に世界全体で1063万台のEVが販売され、前年より57%も伸びた。2020年に始まったEVの超高速成長は3年目を迎えており、その勢いはなお衰えを知らない(なお、本稿ではIEAの集計法に従って、EVとはBEV=純電動車とPHEV=プラグインハイブリッド車の合計と定義する。通常のハイブリッド車=HEVはEVには含まない)。

このような世界的なEVシフトを牽引しているのが中国である。中国でのEV販売台数は2022年に613万台となり、世界全体の6割を占めている。2022年に中国で販売された新車のうち4台に1台がEVだった。

私は今年3月に中国・深圳市を訪問したが、深圳ではすでに新車販売の半分以上がEVとなっている。実際、路上で見ても2台に1台ぐらいがEVのようだった。ガソリンエンジン車がEVに置き換わったおかげで街中が以前に比べて静かになった気がした。私が泊ったのは深圳市の中心部だったが、外を歩いていると鳥のさえずりが聞こえてきた。かつては道路の喧騒にさえぎられていたため、鳥の声を意識することなどなかった。

世界トップはBYDとテスラ

実はEVシフトで日本が世界の先頭を走っていたこともあるのだ。2009~2010年には日産と三菱自動車が世界に先駆けてEVの量産に踏み切り、2011年にはEV販売台数がアメリカに次いで世界2位だった。しかし、福島第一原発の事故によって日本の原発のほとんどが稼働を停止すると、夜間の余剰電力でEVを充電するというシナリオが崩れて日本のEV熱は急速に冷めていった。

2022年には日本でもEV販売台数が前年より183%も増えて初めて10万台を超え、13万台に達したものの、これは人口が日本の半分の韓国より少なく、人口が日本の3分の1以下のカナダと同水準であり、世界的なEVシフトに日本は依然として立ち遅れている。

さて、急成長する中国のEV産業を牽引しているのがBYDとテスラである。2022年にBYDはBEVを92万台、PHEVを95万台生産し、EV生産台数で世界トップに立った。テスラは世界全体ではBEVを131万台生産して世界2位であったが、そのうち72万台弱は上海の工場で生産した。

図1では世界のEV産業で第1位と第2位のBYD、テスラと、生産台数がそれと同じぐらいの自動車メーカーとしてマツダの販売台数とを対比しているが、EVシフトの潮流に乗って急拡大するBYDとテスラ、EV化の潮流に乗らず、販売台数を急速に落としているマツダの対比があまりに鮮明である。EV生産で世界に先鞭をつけたはずの日産と三菱自動車もEVシフトの波に乗れず、マツダと同じように2018年以降まるで坂を下り落ちるように販売台数を減らしている。

marukawachart1.png

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送米、民間人保護計画ないラファ侵攻支持できず 国

ビジネス

米財務省、中長期債の四半期入札規模を当面据え置き

ビジネス

FRB、バランスシート縮小ペース減速へ 国債月間最

ビジネス

クアルコム、4─6月業績見通しが予想超え スマホ市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story