コラム

イランとイスラエルの「ミサイル応酬」ー米国を引っぱり出したいイスラエルの焦点は「米国防長官の去就」

2018年05月11日(金)17時00分

シリアのダマスカス上空を飛ぶミサイル。イランの軍事拠点を狙ったイスラエル軍のものと思われる(5月10日) Hezbollah Media Office/REUTERS


・イスラエルが「報復」を理由にイランをミサイルで攻撃し、直接対決の懸念が高まっている

・イスラエルはイランとの対決に米国を引き込みたいが、そこにはリスクも大きいため、トランプ政権の出方は不透明

・ただし、マティス国防長官が離職した場合、米国がイラン攻撃に傾く可能性は大きい

イランを取り巻く緊迫の度合いが、さらにエスカレートしました。5月10日、イスラエルは70発以上のミサイルで、シリアにあるイランの軍事施設を攻撃。イスラエル政府はこれを、同日イランがゴラン高原のイスラエル軍に20発のミサイルで攻撃したことへの報復と主張しています。

これに先立って、8日にイスラエル軍は、やはりシリアの首都ダマスカス近郊にあるイランの軍事施設にミサイルで攻撃しています。

WS000238.JPG

これに対して、10日現在イラン政府から正式なコメントは出ていませんが、イラン議会の安全保障・外交委員会のノバンデガニ委員長はイスラエルが主張する「イランによる攻撃」が「ウソ」だと主張しています。仮にそうなら、イスラエルが「イランによる攻撃」を自作自演して、イラン攻撃を正当化しようとしているとみられます。

その真偽は定かでないものの、イスラエルがイランとの対決に同盟国・米国を引き込みたいことは確かです。ただし、米国トランプ政権は5月9日、イラン核合意を放棄し、同国への制裁を再開すると宣言したものの、現状においてイランへの攻撃に踏み切るかは不透明です。

世界屈指の産油国イランを取り巻く緊張が高まるなか、既に原油価格も急激に上昇しています。このうえ米国が直接行動に出れば、世界全体がこれまで以上の大変動に見舞われることは、ほぼ確実です。その先行きを占う一つの目安は、マティス米国防長官の去就にあります

イスラエルからみたイラン

イスラエルにとって、イランは最大の敵といえます。

ユダヤ人国家イスラエルは、その建国以来、周辺のイスラーム諸国と衝突を繰り返してきました。しかし、米国の支援もあり、イスラエルが軍事大国化するにつれ、イスラーム圏のうちスンニ派諸国は事実上イスラエルとの対決を回避し始めました。

1979年にエジプトがイスラエルと単独で和平交渉を実現させたことは、その象徴です。近年では、「スンニ派の盟主」を辞任するサウジアラビアも、イスラエルとの関係改善を模索しています。

スンニ派諸国が相次いで戦線離脱するなか、イスラエルとの対決姿勢を崩さなかったのが、シーア派の中心地イランでした

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story