コラム

急増するロヒンギャ難民の「二次被害」―人身取引と虐待を加速させる「ロヒンギャ急行」

2018年06月01日(金)13時30分

マレーシアにボートでたどり着いたロヒンギャ難民(2018年4月3日) REUTERS


・ミャンマーを逃れたロヒンギャ難民の少女や女性のなかには、人身取引の犠牲者になる者が多い

・彼女たちの多くは周辺諸国に密輸されており、とりわけ最近ではバスで隊列を組んでマレーシアに向かう「ロヒンギャ急行」が目立つ

・マレーシアでロヒンギャが、買春などだけでなく、虐待などの問題が深刻な家事労働に関わることが懸念されている

バングラデシュに逃れていたロヒンギャ難民のうち62人が5月27日、帰国の途につきました。2017年11月にミャンマー、バングラデシュ両政府は難民帰還に合意しており、今後さらに多くのロヒンギャが故郷に戻れることが期待されています。

ただし、帰還後の安全への懸念や、親族が虐殺された心理的トラウマもあり、70万人以上とみられるロヒンギャ難民の多くがすぐにミャンマーに戻れる状況にはありません。

その一方で、少女や女性を中心にロヒンギャが周辺国で売りさばかれる事態も急増。なかにはバスを連ねて国境を越えて密輸されるケースもあり、これは「ロヒンギャ急行」とも呼ばれます。

避難が長引くなか、難民の間には生活や雇用の安定を求める気運が高まっており、これに乗じる人身取引業者により、ロヒンギャ難民の「二次被害」は増える傾向をみせているのです

「狩場」としての難民キャンプ

2018年3月、BBCは「セックスのために取引されるロヒンギャの子どもたち」と題するレポートを発表。バングラデシュに逃れていたロヒンギャ難民の少女たちが、人身取引業者によって、セックス産業に売られている実態を告発しました。

WS000242.jpg

BBCの報道は国際的に大きな関心を集めましたが、バングラデシュの難民キャンプに人身取引業者が出没すること自体は、それ以前から報告されていました。

アル・ジャズィーラは2018年1月、バングラデシュの難民キャンプで13歳の娘を3年前に人身取引業者に渡してしまったロヒンギャ女性の話を報じています。この女性は、「家事労働をしてくれる若い娘を探している」と持ちかけられ、娘を送り出したといいます。その後、娘はインドまで連れていかれたところを、人身取引の犠牲者たちを救済する団体に保護されました。しかし、母娘は離れ離れのままです。

ミャンマーで軍や過激派仏教僧の迫害にさらされ、バングラデシュに逃れたロヒンギャたちですが、食糧や水さえ不足しがちななか、難民キャンプでの生活は快適と程遠いものです。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story