コラム

アルジェリア大統領失脚──体制打倒を求める抗議デモとアメリカの微妙な立場

2019年04月08日(月)12時34分

今回の場合、ブーテフリカ氏辞任の2日後の4月6日、それまですでに抗議デモが広がっていたスーダンでは、デモ隊が陸軍本部にまで迫る事態となった。スーダンのバシール大統領は2月、1年間の非常事態宣言を発令してデモの鎮圧にあたっていたが、アルジェリアでの「独裁者」失脚は、スーダンの反政府勢力を鼓舞するとみられる。

さらに、リビアでは4月5日、反政府勢力「リビア国民軍」が首都トリポリへの進撃を開始した。

こうしてみたとき、アルジェリア政変がブーテフリカ辞任という「トカゲのしっぽ切り」で終わるか、それともさらに徹底した民主化に向かうかは、中東・北アフリカの変動がさらに加速するかを左右するといえる。

中国の方針

しかし、ほとんどの国は、ブーテフリカ氏の辞任で事態が終結することを願っているとみられる。それは、他のところで常日頃、角を突き合わせることが珍しくないアメリカと中国も同じである。

このうち、中国の立場はシンプルだ。アルジェリアはアフリカ大陸有数の産油国であるばかりか、中国が進める「一帯一路」構想の沿線上にある。IMFの統計によると、中国の対アルジェリア貿易額は67億ドル(2018)で、フランスの114億ドルに次ぐ2位だ(アメリカは65億ドルで3位)。

その中国は基本方針として、「内政不干渉」の原則を掲げて相手国の政治にかかわらず、経済関係を優先させる立場が鮮明だ。この立場からすれば、相手国の政府が民主的であるか独裁的であるかは大きな問題ではない。

そのため、中国にとっては、たとえ「トカゲのしっぽ切り」で終わり、実質的な軍事政権が存続したとしても、アルジェリアに政治秩序が保たれるなら、それで構わない。むしろ、これまでの支配層が生き残ってくれた方が、ビジネスで都合がよい(この立場は日本政府のものに近い)。

そのため、中国政府が「アルジェリア人が国情にあう道を拓く知恵と力をもつと信じている」と述べるにとどまり、首を突っ込まないことは、不思議でない。

宣教師の苦悩

これに対して、欧米諸国とりわけアメリカの立場は、もう少し苦しい。

欧米諸国は冷戦終結後、自由や民主主義の「宣教師」として、各国にその普及を説いてきた。その立場からすれば、より徹底した民主化を応援してもいいはずだが、アメリカだけでなく旧宗主国フランスもアルジェリア情勢に関しては口が重い(リビアの内戦に関しては自重を呼び掛けている)。

そこには大きく二つの理由がある。第一に、アルジェリア政府がこれまで、中国とだけでなく欧米諸国とも、石油の輸出や対テロ戦争での協力などで、比較的良好な関係を保ってきたことがある。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story