コラム

天安門事件30周年や香港デモに無言の日本――「中国への忖度」か?

2019年06月20日(木)13時35分

逃亡犯条例に反対する香港のデモ(2019年6月17日) Athit Perawongmetha-REUTERS


・天安門事件30周年や香港デモなど中国の人権問題に関して、日本政府が公式にコメントすることはない

・いくつかのメディアはこれを「中国への配慮」と論じているが、それよりむしろ人権より国家の主権や独立を優先させる日本の立場によるところが大きい

・相手の国次第で人権を都合よく強調する立場は、基本的に人権を尊重していない点で、人権を抑圧する立場と大きく違わない

天安門事件30周年や香港デモで中国の人権問題が改めて関心を集めるなか、日本政府が明確にこれを批判することはない。そこに「中国政府への忖度」という見方もあるが、日本政府の沈黙はむしろ昔からのものである

中国への忖度?

1989年の天安門事件から30周年の今年、アメリカのポンペイオ国務長官が改めて中国政府を批判したのに対して、中国政府は「内政干渉」と反発し、人権問題は米中の一つの争点となったことをうかがわせた。

一方、政治犯などを中国本土に引き渡す条例の制定をめぐり、香港で200万人規模のデモが行われている状況に関しても、かつて香港を支配したイギリスのメイ首相は「懸念」を表明するなど、欧米諸国は高い関心をみせている。

これに対して、日本政府からこれらを明確に批判する声明は出てこない。天安門事件についての見解を問われた河野外相は「自由、基本的人権、法の支配は国際的に共有されるべき価値観だ」と原則論を述べるにとどまり、その他の政権・自民党幹部も大同小異だ。

これに関して「日中関係が改善の軌道にあるなかで中国政府に配慮した」という見方もあり、「習近平国家主席も出席する6月末のG20大阪サミットが近いことを日本政府が意識した」という解説もある。

タイミングは重要ではない

こうした見方は一見もっともらしいが、実はあまり関係ない。日本政府が中国の人権問題に口を出さないのはいつものことだからだ

実際、政府要人の往来もほとんど途絶え、「中国との関係がこれ以上冷え込む余地がない」状況だった2011~2014年頃でさえ、ネット検閲や新疆ウイグル自治区でのムスリム迫害など中国の人権問題を日本政府が明確に批判することはなかった。

そのため、日中関係の改善や、ましてやG20大阪サミットなどのタイミングは、大きな意味をもたない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円、対ユーロで16年ぶり安値 対ドル

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ワールド

原油先物、1ドル上昇 米ドル指数が1週間ぶり安値

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story