コラム

スポーツに政治を持ちこまない...わけにはいかない

2010年02月17日(水)19時02分

アフガニスタンが余裕でアメリカを撃破――。

テロ戦争ではなく、スポーツの話だ。今週、ワールドカップ予選が行われているドバイで、アフガニスタン代表チームがアメリカ代表チームに、「クリケット」で勝利した。

タリバン政権時代のアフガニスタンではスポーツは禁止。2000年なって人気スポーツのクリケットだけが唯一「許可」されて、翌年には代表チームが誕生した。今回、スポーツとはいえアメリカを下したことで、アフガン国民の多くが歓喜したのはいうまでもない。

スポーツと外交などがからむと、「スポーツに政治を持ち込まない」という話になるのだが、現実的には難しい。スポーツを通じて友好関係を深めるという概念があるなら、スポーツを通じて国家同士の仲たがいが起きることもある。

昨年末に行われたサッカーW杯予選のプレーオフ。W杯出場をかけた一連の試合をめぐって暴力事件やデモが頻発、エジプトとアルジェリアの外交関係は険悪になり、大使を一時召還する騒ぎにまで発展した。インドでは先月、クリケットの国際トーナメントの選手選択ドラフトで、パキスタン人選手が1人も選ばれなかった(ドラフト対象のパキスタン選手は世界でもトップクラスの選手たちだった)ことをめぐり、建国以来ずっと犬猿の仲である両国で抗議デモなどが発生、多くの逮捕者を出す事態に。

また最近ではスポーツがテロに巻き込まれるケースも少なくない。アンゴラでは今年はじめ、サッカーのアフリカ選手権に出場するトーゴ代表選手団を乗せたバスが独立組織の銃撃を受け、パキスタンでは昨年、クリケットの国際試合に訪れていたスリランカ代表チームのバスが、自動小銃などで武装したイスラム過激派10人に襲撃された。

逆に選手側がスポーツを利用することもある。国際試合を利用した亡命だ。イラク代表チームの3選手は07年、オリンピック予選でオーストラリアに遠征中にホテルから抜け出して行方不明になった。亡命を求めての逃走だった。08年にはアメリカでオリンピック予選を戦ったキューバのサッカーU23(23歳以下)代表チームの選手7人が、ホテルから忽然と姿を消した。キューバからの亡命者を受け入れるアメリカの「wet foot, dry foot 制度」のおかげで彼らはアメリカへの亡命を果たした。

こういう角度からスポーツを見るのは意外に面白い。

――編集部・山田敏弘

他の記事も読む

中国政治「序列」の読み方

ユーロ危機を予測していたフリードマン

アレキサンダー・マックイーン急死の波紋

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story