最新記事
シリーズ日本再発見

岡山・群馬の地方創生は、あの起業家が担っている

2019年08月07日(水)11時30分
井上 拓

会社を大きくして、雇用を増やし、税金を納める、これが一番の社会貢献だ――。そう先輩経営者に教示されたことも過去にはあった。それでも、と田中さんは言う。

「たくさんの方々にお世話になって、現在の自分がある。何か社会に還元するような仕組み、そのためにエネルギーを使いたいという気持ちが芽生えました」

地元地域に目を向けると、地価公示価格が県庁所在地の中で最下位を争っていたり、都市部へ人材が流出していたりと、群馬に元気がなくなっていることを感じたという。そこで田中さんは「起業家が生まれる地域になれば、活力が生まれるのではないか」と考えた。

解決策の1つとして、次代を担う起業家を育成するため、2013年に「群馬イノベーションアワード」を開始する。「求む、出る杭!」をキャッチフレーズに、ビジネスプラン部門、スタートアップ部門、イノベーション部門を募集。エントリー数は右肩上がりで、2018年には402件にまで広がっている。

翌2014年には、無料で受講できる群馬発のビジネススクール「群馬イノベーションスクール」も開講した。起業家教育の地域格差を是正するような取り組みだ。さらに、先述のアワード入賞者などを対象に、シリコンバレーなど先端的な企業の視察訪問をする海外研修ツアーも毎年実施している。

japan190807okayamagunma-3.jpg

「群馬イノベーションアワード2018」のフィナーレ ©上毛新聞社

前橋は特筆すべき個性がないが、「いいものが育つ」まち

その情熱は起業家育成にとどまらない。田中さんは、前橋市中心街の廃業した老舗ホテルの再生を依頼されたことをきっかけに、まちづくりに深く入り込むようになる。そうして気付いたのは、そもそも一貫したまちづくりができていないことや、前橋独自の長期ビジョンがないこと。現在に続く官民一体で推進する「前橋まちなか活性化プロジェクト」はこうした課題感から始まったという。

「前橋市はどういうまちか? 長期的視点の理念や哲学があるか? そして地域の資源や風土を識別し、効率的に活用しているか?」が地方再生に必要なものだと、田中さんは話す。その答えを探るべく、ドイツのブランディングファームKMS TEAMをパートナーに、地域の調査リサーチやインタビュー、3000人ものアンケートに着手した。

「前橋には価値観があり受容性もあるけれど、特筆すべき個性がない。ただ、個性がないのは別に構わない。実は、多くの分野で活躍する出身者も多く、前橋は『いいものが育つ』まちである、ということが分かってきました」

そこから「Where good things grow」という言葉が生まれ、さらに同じく前橋市出身である糸井重里氏のボランティア協力により、「めぶく。」という前橋のビジョンを2016年に発表した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中