最新記事
シリーズ日本再発見

中国から「トイレ革命交流団」もやって来る、トイレ先進国・日本の最新事情

2020年01月31日(金)17時15分
高野智宏

さらに、単なる改修のみならず、改修対象トイレの一部では、若手アーティストや地域の保育園の園児らと共にトイレの壁にペイントやラッピングを施すアートトイレを展開。ほかにも、区有施設やプロジェクトに協力する区内145のコンビニを含む、街中のトイレをマップ化した「としまパブリックトイレマップ」を制作し、区役所ほか区内各施設で配布している。

トイレ研究所もこのプロジェクトに参画。加藤氏も高野之夫・豊島区長とTPTPに関連したフォーラムに参加するなど旧知の仲だ。

「高野区長は『トイレは街の品格』だとおっしゃっていた」と、加藤氏は言う。「トイレマップを制作したのも、人はデパートだけでなく、駅や飲食店、公園などを回遊するから。品格については施設単位の点ではなく街全体の面で考えるべきで、そうした試みが女性が安心して回遊できる街となり、その街を訪れ住まう理由にもなるということなのでしょう」

国家事業「中国トイレ革命」の視察団が来日

こうした日本のトイレの「先進性」に訪日外国人が驚くという話はよく聞くが、昨春には中国から視察団も訪れている。その名も勇ましい「中国トイレ革命交流団」の一行だ。日本のトイレにおける理念や政策、そして、その技術や環境改善への理解を深めることが目的だった。

「中国トイレ革命」とは2015年に習近平国家主席自らが掲げた政策で、「2017年までに全国5万7000カ所に公衆トイレを新設・改装するほか、農村部で水栓トイレの導入を急ぐ」というもの。

2017年10月には、目標を上回る6万8000カ所のトイレが新設・改装されたと発表されており、今年に入ってからは、2020年までにさらに6万4000カ所のトイレを新設・改装するとしている。

その予算は年間で1000億円をも超えるとされ、「革命」という言葉が大げさとは思えなくなるほどの、紛れもない国家事業なのである。

その背景には、農村地ではいまだに一般的に使用されている、床に穴が空いただけの肥溜め式の「ぼっとんトイレ」における健康リスクがある(現在猛威を振るっている新型コロナウイルスの発生に、中国の劣悪な衛生状態が指摘されていることからも明らかだろう)。

さらには、両隣との仕切りがなく、「ニーハオトイレ」と世界から揶揄される公衆トイレを改善することで、訪中観光客の増加を画策。勢いに陰りが見え始めた経済成長率を再び上昇させたいという狙いもあることは言うまでもない。

来日したトイレ革命団は、約1週間をかけ東京、埼玉、和歌山を訪問。関係省庁や各種企業担当者と意見交換を行ったほか、浄化槽システムや排水処理に関する政策や技術、地域や視線に配慮した排水事業に関する説明を受けた。

また、各地では戸建住宅向け浄化槽の稼働現場をはじめ、バイオトイレや農業集落排水施設の視察など、さまざまな角度から日本のトイレに関する知見を広めたという。この視察で彼らが得た知見が、中国トイレ革命をより推し進めていく役に立つかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中