最新記事
シリーズ日本再発見

改正健康増進法から1年、見えてきた日本の課題

2021年04月01日(木)17時00分
高野智宏

japan20210401smokingareas-2.jpg

コロナ対策により閉鎖された屋外喫煙所(2020年5月) Fiers-iStock.

その結果、当然のように"喫煙難民"が発生する事態に。東京都庁のお膝元である西新宿でも、豊島区の池袋駅周辺でも、指定場所以外での喫煙や吸い殻のポイ捨てが問題となった。

マナーの悪さは言わずもがなだが、個々の喫煙者を批判するだけでは問題は解決しない。そもそもの問題として、喫煙所不足の側面があるからだ。

欧米でも同様に喫煙規制は進められているが、屋外へ一歩出れば、自由に喫煙できるという国が多い。そこが日本との違いだ。「(屋外では自由という欧米の喫煙環境に)手放しで賛同するわけではないが、そもそも数の少ない屋外喫煙所まで閉鎖してしまうのはどうか」と、前述の岸氏も言う。

「過剰な規制は規制対象を闇に潜らせる。2010年に実施した消費者金融への上限金利の引き下げが、結果としてより法外な金利を課すヤミ金を増殖させたことに疑いはない。ポイ捨てもそれと同じなのです」

自治体や大学で進む喫煙環境の整備

もちろん、自治体も手をこまねいているわけではない。政府・与党は各自治体に対し地方たばこ税を屋外喫煙所の整備に充てるよう促し、屋外喫煙所を設置する動きは広まりつつある。また、キャンパス周辺での喫煙やポイ捨てが問題となっていた大学でも、喫煙環境を整備する例が増えてきている。

では、喫煙所の設置は実際にポイ捨てを減らす効果があるのか。千葉市が海浜幕張駅周辺で行った実証実験では、喫煙所の設置により路上喫煙やごみの散乱が減少した(路上喫煙率は28.6%減、散乱ごみ数は34.0%減)。

「喫煙者がいかなる場所でもマナーを守って喫煙していれば、もしかしたらここまで厳しい規制は課せられなかったのかもしれません。喫煙者も権利ばかりを主張していてはダメ。権利には義務が伴います」と、岸氏は言う。

「私は分煙を推進する日本独自の受動喫煙対策には賛成です。そのためにも、たばこ税はぜひとも、飲食店における喫煙室の設置費用や屋外における喫煙所の増設に活用してもらいたい」

規制の強化によって、屋外では逆に望まない受動喫煙が増加しているのだとすれば、皮肉な結果と言える。分煙の徹底と喫煙環境の整備、そして喫煙者のさらなるマナー遵守が、喫煙者と非喫煙者の良好な共存環境を築くのではないだろうか。

japan_banner500-season2.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中