コラム

DJ SODA事件の「警備体制に問題あった」は本当か?

2023年08月21日(月)12時19分

客がまともなら問題は起きない

まず、「過度な露出が問題」という説。これはすでに多くの有識者やアナウンサーなどが明確に指摘している通り、現代の日本社会ではまったく理由にならない。だいたい、この説を唱える人々は被害者がどんな格好をしていようと、「服装が悪い」と言うのだ。

ミニスカートが扇情的というのでロングスカート履けば今度は二の腕が露出していると文句を言うだろうし、ワイシャツとズボンを着れば今度は化粧が濃すぎるとケチを付けるだろう。厳格なイスラム教徒の女性のようにヒジャブやブルカでも着用して全身を巨大な布で覆わない限り、彼らが納得することはない。

次に、警備面や舞台設営など、運営側の非を責める意見について。これは寿司ペロ炎上が起きた際に「醤油差しを手の届くところに置くのが悪い!」と言っているようなもので、やはり論点がズレている。客側がまともに振る舞えば、現行の警備体制で何も問題はないのである。

彼らは「こうなることは当然予想できた」としたりげに言うのだが、それは決まって事後である。そんなに危機管理能力や予知能力が高いなら、これから年内に開催予定の各種イベントについて、今のうちから事前に問題点を予見しておいて頂きたいと思う。

今後、運営側が警備体制を強化することはあるかもしれない。ただ、それは客側にバカな人間がいたために、バカに合わせているというだけだ。その結果、常識を備えた人間の利益は損なわれる。

性を売りにしている、というのもイチャモンに近い。確かにSNSで拡散されている動画などを見ると、彼女はこれまでも自身のセクシーさを売りの一つにしていたようではある。とはいえ、これもまた触って良い理由にならない。

反日的な言動やFワードによる空港トラブルについては、私も決して感心はしないものの、それもまた、触られて良い理由にならない。こうした言説を拡散することで何かを論破したような気分に浸っている人々は、相手女性が不道徳・不誠実な人間であれば、性被害を受けてもやむを得ないという考えなのだろうか。

「公演中にセクハラを受けたことは初めて」というのは彼女の主観による部分もあるだろうし、もう少し説明して欲しい感はある。とはいえ、初めてだろうとそうでなかろうと、被害を受けたことに変わりはない。

こうしたネット上の言説を見ていると、日本社会のもっとも醜悪な部分を見せつけられているような気分になり、いたたまれないものがある。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

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