コラム

やっぱり日本は終わりだ

2020年03月03日(火)13時25分

子供が学校ではなく学童に送られたのは大人の都合 Issei Kato-REUTERS

<安倍首相からの一斉休校の掛け声に対し、「子供の教育の機会を奪うな」と反対した親がほとんどいなかったことを嘆いた筆者のコラムに多くの反響が寄せられた。以下は、それに対する回答だ>

昨日の記事に対して、予想以上の反応があったが、多数いただいたコメントは大変興味深かった。

大きく分けて、3つの意見があった。

第一には、教育よりも生活、命が重要だと。命あってのものだね、生活が成り立って初めて教育にいけるね、というものだ。

これは近代社会が否定してきた概念だ。

義務教育がほとんどの国で憲法に定められているのは、自分の生活のために、子供の教育を犠牲にしないように、親に教育義務を課すものだ。教育より生活が重要というのは120%間違いだ。子供たちは社会の最も重要な資産だから、子供の教育が親の生活の犠牲になってはならない、というのが近代社会の前提条件だ。

さらに言えば、命よりも教育は重い。短期的に、生活や命を救っても、社会がそれによっておかしくなるのであれば、将来の何千万、何億もの命が失われることになる。したがって、目先の生活よりも教育が大事であり、目先よりも社会の将来、人類の未来が重要なのである。

目先の一つの命よりも、将来社会の多くの命が重い、と書くと、多くの批判が寄せられるだろうが、この論点を議論するのは重要なことだが、残念ながら、今日はそんな深遠な社会思想の議論をする必要はない。

学校より危ない学童

なぜなら、教育よりも命が大事だという人々が、学校から子供たちを追い出して、学童に子供たちを押し込めることを攻撃していないからだ。子供たちの感染リスクという点では、学校の方が広いし、人手はあるし、圧倒的に感染リスクは低い。学校を休校にすることを支持するならば、学童、託児所を閉めないことに対して、半狂乱になってでも、反対しないといけない。ところが、その動きは目立たない。

学童や託児所を開けることを容認しているのは、大人の都合だ。働きに行けないからだ。つまり、経済を、生活を優先させて、子供の命をリスクにさらしているのである。これこそまさに、多くの近代社会が危惧したことで、親の都合、生活、カネのために、子供をリスクにさらしているのである。

学校を閉めてまで、もとから低い感染リスクをさらに低くしたいのであれば、仕事は休むしかないし、休まないのであれば、学校教育よりも仕事の方が重要だ、ということを告白しているに過ぎない。会社が休ませてくれないのであれば、そんな会社は辞めてしまえ。あるいは政府を攻撃するより、その会社を、会社の短期的な利益、都合のために、子供たちの命を犠牲にする会社を攻撃して、つるし上げたらよい。

結局、生活よりも教育は重要でないし、子供の命よりも、自分たちの生活優先なのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界EV販売は年内1700万台に、石油需要はさらに

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story