コラム

ブラック飼い主からペットを守れ!――大江千里が、虐待される犬猫を救う「ペット法案」を考えてみた

2022年10月29日(土)17時10分

人の年齢では約96歳、筆者の大切な家族である愛犬「ぴ」 SENRI OE

<アメリカではコロナ禍で5人に1人が犬か猫を飼い始めた。しかし中にはペットを虐待するブラック飼い主も......。そんな彼らを撃退するには>

バイデン米大統領は今年初め、ホワイトハウスに新しい猫を迎えたそうだ。今は中間選挙を前にペンシルベニア州では上院議席を懸けて両党が戦っているが、トランプ前大統領が後押しする共和党候補の医師が昔、動物実験をしたという疑惑が報じられた途端、いきなり対抗馬の民主党候補が犬好きをアピールするという応戦に出た。

どうやら、支持率とペットには深い関係があるらしい。

実は、コロナ禍でアメリカ人の5人に1人が犬か猫を飼い始めたという統計がある。街では散歩に不慣れな犬と新米らしき飼い主をよく見かけるが、最近2度驚いたことがある。嫌がる犬を大声で叱りつけ、リードを引っ張り上げ、空中へぶら下げお仕置きをした人がいたのだ。

1回目は若い白人の女の子、2回目はお年寄りの白人女性だった。ペットと飼い主の関係は千差万別とはいえ、これは虐待だろう。心が痛くなった。

健康的な食事や医療費、保険代など、飼い主にはペット管理のため、さまざまな出費を負担する義務がある。その根幹には、彼らは敬意を払われる存在であるべきだという考えがある。

だから窮地に陥っているペットを勇敢な第三者が助ける行動を起こしやすいよう、法で守ることを公約に加えてもいいのではと思う。例えば、ペットエマージェンシーというアプリで場所を確定してパトロール隊が駆け付けるシステムとか。

最近ニューヨーク州ではパピーミル(お金儲けを優先させ劣悪な環境でペットを大量繁殖させるブリーダー)を取り締まる法案が可決されたのだが、それこそブラックブリーダーだけではなく、軽いノリでペットを飼い始めすぐに捨ててしまうブラック飼い主を厳しく罰する法案が必要だ。

罰金を科すとか、重労働を科す。それこそ街のうんこ清掃を1年でもいい。

ペットを社会に適合させるのは「人の都合」

わが家の愛犬「ぴ」は、アメリカに来てすぐにドッグランで友達ができた。しかし数日後、血尿が出てグッタリ。病院に行くと何らかの感染症で衰弱しているとの診断で、即入院した。

医師によると感染の原因はドッグランの可能性が高いと言う。楽しげに飼い主たちと犬が戯れるあの場所には、狂犬病の予防接種義務を無視している飼い主もいる。ぴが身をもってそれを証明してくれた。

ペットたちは家族の一員だし、彼らを人の社会に適合させるのは人のご都合だからこそ、尊敬と感謝と愛を持って接することが大切だと思う。それができない飼い主を見つけたら、ペットエマージェンシーの出動だ。

こんな話をする僕も音大生だった頃、忙しく自分のことばっかりで、ぴのことはいつも後回しだった。申し訳ないことをしたと今では反省している。今はお互いに年を取り、彼女は16歳で人にすれば約96歳だ。今度は僕がぴに恩返しをする番なのだ。

無償の愛で人間を救ってくれるペットには、守ってくれる家族が必要だ。愛すべき存在を「守る」法律、そして守る人を「助ける」法律を、州をまたいで成立させてもいいのではないか。

動物の命は人間の命と同じように、いや弱い立場だからこそ「それ以上に」、尊いものだから。以上をもってペット法案に関するプレゼンを終わらせて頂く。一礼!


プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

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