コラム

「自己責任論はあり得ない」から議論を始めよう

2018年11月09日(金)16時00分

日本よりも人質にされる国民が多いアメリカはどうだろう? 普段は、間違いなく自己責任の国だ。救急車だって政府は費用を出してくれない。飲酒運転で事故ったどころか、ひき逃げされたとしても救急車に乗るなら、乗った人が払う。数万から数十万円かかる。だいたいちょっとしたケガよりも救急車代が痛い。

でも、国民が外国で拘束されたら政府は動く。上記の計算でプライオリティーが高い場合は特殊部隊を出すこともあれば、経済制裁や外交ルートで圧力をかけることもある。身代金は払わないが、拘束中のテロ犯を釈放する「捕虜交換」はやる。過去には「テロ国家」に武器を渡したこともあった。

プライオリティーが低ければ、数年間何も進展がない場合もある。でも当事者がヘマしたからといって、忘れることはない。脱走した兵士も、布教活動した牧師も、独裁国でポスターを盗んだ青年も「自己責任」と公言し、見捨てようとはしない。

国の責任を免除するための自己責任論は通じない。どのケースでも、救出へと動かないことにしても、その判断の責任は政府に所在する。さまざまな議論を踏まえて「身代金を払わない」とか「国策を曲げない」などと基本方針を決め、その上で案件別に対応を決めていくしかないが、それは全部政府の仕事。そのために国民に選ばれているのだ。

しかし、だからと言って、国民が国に余計な迷惑をかける身勝手な行動をしていいとは思わない。自己責任ではなく、国という運命共同体に対する「国民責任」を持つように心がけるべき。それも逃れられないものだ。

とにかく、海外では気を付けてください。特にテロ組織とアメリカの救急車に。

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プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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