コラム

野村元監督に敬意を表し、トランプ弾劾を野球にたとえてみると

2020年02月21日(金)16時00分

そこで、チームBはキャプテンの息がかかっているルール委員会には任せないで、今回の不正疑惑を自ら調べることにする。チームAから勇気ある証人が数人立ち上がり、みんなの前で「噂は事実だ」と証言する。これをもって、キャプテンが務めていた仕切り役の交代をチームBは求める。

しかし、仕切り役交代の是非はまたチームAが決める。チームAは「検討会」を開くが、中立的なふりさえしないで「キャプテンの希望に合わせて進める」と検討会長が最初から宣言する。そして有言実行で、以前の証人だけではなく、検討会を進めている間に「全部見たよ!」と、新しく立ち上がった人にも証言させないし、新たに発覚した証拠も見向きもしない。「早く片付けてほしい」と言っているキャプテンの希望通りの運びだ。

検討会は証拠も証人も要らない理由として、疑惑が事実であっても「キャプテンが試合に勝ちたくてやっていることは、ルール違反になりえない」と主張する。そんな暴論に基づく、空っぽの「検討会」の結果、チームBの主張はあっさりと退けられ、チームAのキャプテンの仕切り役としての続投が決まる。

短くまとめると、第三者の介入があった前回の試合で勝ったチームAのキャプテンは、また今回の試合に第三者を介入させようとしている。それを止めることは同じチームAの仲間にしかできないが、彼らはキャプテンを抑制するどころか「勝つためなら何をやってもいい」と宣言している。

そして、ルールを守らないと言いながら、「文句があるなら、試合に勝てばいい」と開き直っている。

こんなの、プロ野球どころか草野球でも、クソ野球でもあり得ない話だろう。だが、これがドナルド・トランプの弾劾ゲームで起きたこと。ポイントごとに説明しよう。

ホームチーム

4年おきの大統領選で選ばれた党は行政権を握る。現在は共和党だ。

試合開始前から変な噂

ロシアによる2016年の米大統領選挙への不正介入やそれに関連するトランプ陣営の共謀の疑惑は、選挙前からFBIの捜査対象となっていたし、トランプの大統領就任前から公に噂されていた。

追い風

ロシア(アメリカの対立国=反社会的勢力)はSNSに偽の書き込みをしたり、フェイクニュースを流したり、または民主党選挙本部へのハッキングで入手した電子メールをリークしたりするなど、さまざまな手段でトランプの支持率を上げて、ヒラリー・クリントン大統領候補の支持率を下げるように介入した。

特別審査の結果

ロバート・ムラー特別検察官はロシアとトランプ陣営の「共謀」の証拠は見つからなかったと言いつつ、ロシアによる介入やトランプとロシアの連携行動を確認した。例えば、トランプが集会で「ロシア、聞いているか? 3万通もあるヒラリーの『消えた』電子メールを見つけてしてほしい」と呼び掛けたその日から、ロシアの工作員が民主党本部のサーバーへのハッキングを開始したのだ。同時に、ムラーは報告書で少なくとも10回の司法妨害ととれる行動も指摘した。だから共謀の証拠が見つからなかったとも考えられる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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