コラム

今度は移民を直ちに国外退去、トランプ政権の憲法観に猛反発

2018年06月26日(火)18時50分

トランプは「人権は米市民だけに適用される」と考えている Kevin Lamarque-REUTERS

<不法移民の親子の引き離しはしないという大統領令を出したトランプだが、今度は越境してきた移民を問答無用で追い返すと言い出した>

メキシコとの国境地帯で「不法移民を全員逮捕」するというトランプ政権の「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ、つまり一切の例外を認めないこと)」の方針、その結果として発生した「親子の隔離(セパレーション)」については、トランプ大統領は「親子の隔離はしない」という大統領令に署名して新たな事例の発生は食い止めるとしています。

新しい措置としては、マティス国防長官が「軍の基地を提供して、親子が一緒になって難民認定の審査を待てるようにする」としていますが、実現するかどうかは不透明です。一方で、2300例ほどあった「親子の隔離」については、500例について「再会ができた」とされるものの、残りの1800についてメドは立っていません。

そんな中で、トランプ大統領は今度は全く別のことを言い出しました。それは、「迫害や身の危険を避けるために越境して来た移民」について「自動的に強制送還」、つまり「その場で追い返す」運用にしたいというのです。この提案に対して、反対派は「憲法に認められた迫害や恐怖からの自由」という権利が侵害されると猛反発しています。

ところが、これに対してトランプ大統領とその周囲は、全く問題ないとしています。その背後にある発想法というのは「合衆国憲法に保障された基本的人権はアメリカ市民だけに適用される」という考え方です。

もちろん、アメリカでも民主党支持者を中心に多数派の考え方は、基本的人権というのは「普遍的なもの」であって、外国人であっても適用されるという考え方であり、具体的な刑事法制なども、そのようになっています。

この「基本的人権はアメリカ市民にしか適用されない」という考え方ですが、トランプ政権特有のものかというと、決してそうではなく、共和党の一部の保守派には以前からある発想法です。そこには、アメリカの独立というのは、建国の父たちが「血を流して勝ち取ったもの」というイメージがあり、つまり自分たちの祖先が犠牲を払って獲得したものだから、外国人には与えたくないというのです。

ですが、この発想法がここまで露骨な形で出てきたのは珍しいのです。例えば、2000年代に当時のジョージ・W・ブッシュ政権は、拘束したアルカイダ関係者など「テロ容疑者」を一般の刑事法廷で裁くことを拒否しました。その際に言われたのは、合衆国に対してテロ行為を計画するような人間には、合衆国憲法による「専門家による弁護を受ける権利」はない、あるいは権利を与えたくないというロジックでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story