コラム

東大理3はコンピューター科学専攻にすればいい

2019年01月24日(木)14時40分

現在の東大理3は医学部進学を前提とした科類 STR New-REUTERS

<東大のスローガンが「志ある卓越」であるなら、東大理3には「最も卓越」した頭脳を集結させて情報科学を極めてはどうか>

東京大学の理科3類を改革せよという提言をしたいと考えていますが、そのために東大のホームページを閲覧したら妙なスローガンが掲げてありました。「志ある卓越。東京大学」というのです。これは大学の創立140周年を記念して、学内アンケートを行い博報堂の協力を得て決定した「キャッチコピー」なのだそうです。

ちなみに学内アンケートなるものの結果も公開されていますが、1位は「世界の灯台たれ」というダジャレの類でした。それでも、この1位になった案に投票した人には記念品が出たというのですから、周年行事全体がそんなに真剣なものではなかったのかもしれません。

それはともかく、筆者は「志ある卓越」という表現がとても気になりました。というのは、「志があること」と「卓越性」を両方ともに実現していこうというのが「目指すべきこと」であるのなら、もしかしたら現在の東大というのは「卓越しているが、志はない」という状態、全部ではなくても一部にそうした傾向があることを憂いているのかもしれない、そう思ったからです。

もちろん、個々の教官や学生はそんなつもりはなく、志をもって社会改良や真理追求に努力していると思いますが、そういえば近年は気になる点も出てきています。

それは理科3類(理3)の問題です。理3といえば、1962年に設置されて以来、東京大学の中でも医学部医学科進学を前提とした科類として、日本の大学入試における最難関として知られています。定員は長い間80名でしたが、近年は100名、その学年のトップ0.01%しか入れない「受験の頂点」ということになっています。

問題は、この「理3」がやたらに話題になることです。子供をたくさんこの理3に合格させた親が著名になったり、せっかく中学受験をして私立に入っても、理3に入れるには、中1から東大受験の塾に通わせる必要があるなどとテレビで取り上げられたり、少々目に余ります。

というのは、本来は医学を志して努力し、その結果として入るべきコースに、医学への志の弱い、ただ「卓越性」だけを求めて入ってくる若者、あるいはそれを期待する親が増える可能性があるからです。高校の進路指導においても「キミなら理3に受かる」などと言って、医学に興味のない若者に無理に受けさせることもあるでしょう。ですから「とにかく最難関だから」挑戦してみようとか、受かったら偉いとかいう考え方が出てくるということは、いいことではありません。

もちろん、東大はその点を警戒しているのだと思います。少し前から理3だけは面接試験を課しており、恐らく医師への適性が希薄な人材、「志なき卓越」を目指しているだけの人材は出来るだけチェックするようにしているのでしょうし、静かにスタートした推薦入試制度で、理3についても毎年2~3名の合格者を出しています。それなりの工夫はしているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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