コラム

ボーイング737MAX8、問題の本質は操縦免許にあるのでは?

2019年04月10日(水)19時45分

重大事故にもかかわらずなぜボーイングの対応は鈍かったのか?(写真はボーイング社工場の737MAX機) Lindsey Wasson-REUTERS 

<事故が連続したにもかかわらずボーイングの反応が鈍かったのは、製造上の問題で組み込まれた自動機首下げソフトの存在を故意に隠していたからではないか>

インドネシアのライオン・エア、そしてエチオピア航空機と、同一機種が続けて全損事故を起こし、合計で346人の人命が奪われた事故ですが、事故を起こしたボーイング737MAX8という機種の何が問題だったのか、問題の核心はいまひとつハッキリしません。

この事故ですが、多くの報道では、
(1)燃費を良くするために無理にファン口径の大きなエンジンを搭載した。
(2)そのためエンジンの位置が前方にせり出し、飛行機の飛行特性が変わってしまい機首が上向きになりがちとなった。
(3)この機首上げを抑制するために自動機首下げのソフトが組み込まれ「MCAS(操縦特性向上システム)」と命名された。
(4)運悪く飛行機の機首の角度を検知する仰角センサーが故障するとMCASが暴走する。
(5)手動ではMCASがオフにできないため、結果的に機首が下がって墜落した。
というストーリーで事故原因が紹介されています。

これは深刻な問題です。では、本当の問題とは何か、謎を解く鍵としては、2つあります。まず、同一機種が連続して類似の事故を起こしたということを重く見て、各国の航空監督当局は同機種の飛行停止を命令していました。その一方で、最後まで飛行していたのはアメリカの航空会社、具体的にはアメリカン航空とサウスウェスト航空でした。

機種を製造しているのが米ボーイング社であり、自国の飛行機だから信頼したとか、ボーイングへの義理のようなものがあったという可能性は否定できません。トランプ大統領が「政治介入して飛行停止」させるまでFAA(米航空局)が飛行停止処分をしなかったのは、自国のボーイングに甘かったという可能性はあります。

ですが、自分の命をとにかく大事にするアメリカのパイロットが、最後まで飛ばし続けたというのは、不可解な感じがします。もう一つの鍵は、ボーイングの態度です。事情はどうあれ「まず謝ってしまう」日本とは違って、「自分が悪いとハッキリするまで謝罪してはいけない」という文化はアメリカには確かにあります。

ですが、事故の連続に全世界がショックを受けているにも関わらず、ボーイングの経営陣の動きは鈍いものでした。ライオン・エアーの事故が昨年10月末、エチオピア航空機の事故が今年の3月10日でしたが、ボーイングが責任を認めたのは約1カ月後でした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国防長官、中東の安定強調 イスラエルなどと電話協

ビジネス

中独は共通基盤模索すべき、習主席がショルツ首相に表

ビジネス

中国GDP、第1四半期は前年比5.3%増で予想上回

ワールド

米下院、ウクライナ・イスラエル支援を別個に審議へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story