コラム

超法規の政府職員を動員してデモ制圧に乗り出したトランプ

2020年07月21日(火)16時40分

デモ隊に向かって催涙ガス弾を撃つ謎の「迷彩服集団」 Caitlin Ochs-REUTERS

<デモ隊を制圧した謎の「迷彩服集団」は、国土安全保障省が組織した政府職員のグループであることが判明>

今年5月末にBLM(Black Lives Matter)の運動が全国に拡大したなかで、トランプ大統領はデモ隊を敵視して、実力行使を宣言してきました。自分は「法と秩序を実現する大統領」だとして、デモ隊のもたらす無秩序を制圧するのが任務だというのです。

例えば、6月1日には、ワシントンDCにおける平和的デモを敵視して、正規軍の投入を示唆しましたが、この時にはエスパー国防長官が拒否しています。ちなみに、トランプの忠臣と思われていたエスパー長官は、この一件で大統領の不興を買ってクビになるという観測がありましたが、結果的に更迭はされませんでした。

その理由としては、連邦の正規軍が自国市民に銃口を向けることへの「拒絶」は「軍の総意」だったから、という見方があります。ですが、トランプはその後も、連邦政府としての実力行使によってデモ隊を制圧する構想を何度も口にしていました。

例えば、6月8日にワシントン州シアトル市の「キャピトル・ヒル」地区がデモ隊によって占拠され「解放区」となった際に、大統領は軍の投入による制圧を何度も匂わせましたが、そのたびにインスリー知事やダーカン市長などの強い拒絶にあっています。この占拠については、域内で発生した銃撃事件を契機に、シアトル市警が整然とした排除行動を行い、占拠側も順次退去したことで7月1日に終了しています。

大統領としては結果的に連邦政府としての介入のチャンスを失ったわけですが、それでも諦めていなかったようです。その後、7月17日になって、大統領は予想外の形で介入を始めたのです。

ポートランドに出現した謎の集団とは

場所は、シアトルから南に3時間ほど走ったオレゴン州のポートランド市。ここも、リベラルなカルチャーの強い地区で、俗に言う「アンティファ(Anti-Fa、反ファシズムの略)」の拠点だと思われている街です。その「アンティファ」というのは、トランプが「テロ団体指定」をしているのですが、実際は組織ではなく、反ファシズムをスローガンに掲げた一種の文化運動のようなものですが、確かにポートランドはそうした運動が盛んな街に違いはありません。

ちなみに、「アンティファ」というのは、このポートランドで行われた右派の集会に対する「カウンター行動」として登場したのが契機と言われています。そのポートランドでは、5月以来「BLM」のデモは断続的に続いていました。トランプはこれを標的として動き始めたのです。

具体的には、迷彩服を着た謎の集団がデモ隊に襲いかかり、リーダー格の人間を一方的に拘束するという活動です。その迷彩服ですが、組織を示すエンブレムもないし、階級・氏名などを明示した正式な制服ではなく、謎に包まれた存在でした。ですが、その実体は「国土安全保障省(ホームランド・セキュリティ)」の職員ということが分かりました。

<参考記事:「米コロナ致死率は世界最低」と繰り返すトランプの虚言癖

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強

ワールド

イランとパキスタン、国連安保理にイスラエルに対する

ワールド

ロシア、国防次官を収賄容疑で拘束 ショイグ国防相の

ワールド

インドネシア中銀、予想外の利上げ 通貨支援へ「先を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story