コラム

米国家経済会議コーン委員長の辞任で始まる、共和党主流派の「トランプ離れ」

2018年03月20日(火)16時00分

コーンの辞任は政権内での理性派の敗北を象徴しているのかもしれない Mark Wilson/GETTY IMAGES

<鉄鋼とアルミニウムの輸入制限実施をめぐる意見対立で、国際派コーンまで政権を去ることの政治的意味>

アメリカで最も有名な銀行マンの言葉は、多くの人の思いを代弁するものだった。金融大手JPモルガンのジェームズ・ダイモンCEOは、ゲーリー・コーンがホワイトハウスを去ることを惜しんだ。「(コーンは)経済の仕組みを知っていて、全てのアメリカ人にとって健全な経済をつくるために何が必要かを知っている。その彼はもういない。残念なことだ」

金融大手ゴールドマン・サックスの社長からトランプ政権の国家経済会議(NEC)委員長に転じたコーンは、17年夏にも辞意を示したことがある。白人至上主義者の集会で抗議の市民が死亡した際、トランプがネオナチを擁護するような発言をしたことに、東欧ユダヤ系のコーンは反発したのだ。

そのときは思いとどまったが、今度は違った。強く反対したにもかかわらず、トランプが鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を実施する意向を表明したことで、自由貿易を重んじるコーンは政権を離れることを決断した。

これにより経済が大打撃を受けかねないと、多くの論者は指摘している。ある報告書によれば、最終的にはアメリカの雇用が14万6000人減り、中国だけでなく同盟国とも貿易戦争が過熱する恐れがあるという。

こうした指摘は正しい。しかし、差し当たりもっと大きな問題は、ホワイトハウスの混乱が拡大し、11月の中間選挙を前に共和党内の亀裂が深まる可能性があることだ。コーンの辞任は、トランプの保護貿易主義的な傾向に戸惑っていた共和党主流派の多くを動揺させるだろう。自由貿易は、共和党主流派が重んじてきた理念だ。

次の注目は下院議長に

共和党の実力者や大口献金者は、大統領の言動を毛嫌いしながらも、それを容認してきた。ビル・クリントン元大統領の(相手の女性との同意に基づく)不倫行為を激しく糾弾した共和党が、トランプの数々の性暴力疑惑には目をつむり、アクロバチックな主張を展開してまで大統領を擁護している。

共和党員たちは多くの場合、保守派の最高裁判事を誕生させるとか、大規模減税を実現するといった「より大きな政策上の目的」のためという名目で正当化してきた。しかし、自由貿易という共和党の大切な理念が覆された今、コーンのようにトランプから離反する共和党員が出てくるかもしれない。

これまでコーンの存在は、共和党員が異端の大統領を支持する口実だった。コーンは政権内で、ポピュリスト的、ナショナリスト的、保護貿易主義的な政策を唱える勢力と戦っていたからだ。

そのコーンが政権を去ったことは、政権内での理性的なグループの敗北を象徴しているのかもしれない。大統領の娘イバンカとその夫ジャレッド・クシュナーを中心とする国際派陣営の重鎮だったコーンが辞任しただけでなく、クシュナーはロシア疑惑捜査の標的となり、最高機密を取り扱う権限も失った。穏健派のケリー大統領首席補佐官の交代も取り沙汰されている。共和党主流派の多くは、政権がどこへ向かうか不安に駆られているはずだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story