コラム

火花を散らすアメリカとイランの対立、因縁の歴史をおさらいしよう

2018年08月04日(土)16時40分

今年5月、トランプはイラン核合意からの離脱を表明した(写真は7月) Joshua Roberts-REUTERS

<イラン制裁をめぐって対立が激化するが、なぜ関係がこじれたのかを実はアメリカ人は知らない>

トランプ米大統領が主人公の漫画のようなアメリカ史に、また新たな1ページが加わった。7月22日深夜、トランプは米史上最も常軌を逸した外交メッセージを発した。アメリカによる制裁強化を「戦争」という言葉を使って牽制したイランのロウハニ大統領に向けて、ツイッターでこうつぶやいたのだ。

「イランのロウハニ大統領に告ぐ。二度とアメリカを脅迫するな。さもなければ、歴史上、ほとんどの国が経験したことのない報いを受けることになる。アメリカは、暴力と死などという、とち狂った言葉にもう容赦はしない。用心せよ」

これに対しイランのザリフ外相もツイッターで反撃。こちらも歴史を持ち出してやり返した。いわく、数千年の歴史を持つイランは、その間に数々の帝国の滅亡を見届けてきた、そっちこそ「用心せよ!」と。

米大統領が発する言葉がイランの怒りに火を付けるのにも、数十年の歴史がある。最近では02年にブッシュ元米大統領が北朝鮮とイラクと並べてイランを「悪の枢軸」と呼び、今はトランプがかつてないほど怒りの「口撃」を繰り返している。

一方で、ブッシュとトランプの間に挟まれたオバマ政権は15年、欧米など6カ国とイランとの核合意にこぎ着けた。意外かもしれないが、核合意はイランでは国民の大半から支持を得、3分の1は核合意を「勝利」と見なしている。イラン人の10人に4人は、双方にとって有益であるとさえ考えている。

翻って、アメリカはどうか。アメリカ人の核合意についての認識は微妙なもので、21%は核合意からの離脱を支持し、同数の21%は合意の維持を支持。57%は答えられるほど情報を持ち合わせていないと回答した。

では、そもそもなぜアメリカとイランはこうも敵対するのか。それを読み解くには、2国の正しい「歴史」をおさらいすることが必要だろう。

中東が代理戦争の場に

2国間に最初にくさびが入ったのは、米CIAが石油利権をめぐってイランでクーデターを起こした53年のこと。それまでの数十年、イランの石油は欧米企業の支配下に置かれ、利益を吸い上げられていた。ところが51年、民主的な選挙によってモサデク政権が誕生すると、モサデク新首相は就任直後にイランの石油産業を国有化して欧米から奪還。すると米英は、すぐさまモサデクを失脚させて米英寄りのパーレビ国王に君主政治を敷かせるべくクーデターを起こした。

しかしこれが、イラン国内のリベラル派と保守派の両方を敵に回し、その後の両国関係に決定的な影響を及ぼすことになる。

保守派は宗教と無関係なパーレビが権力を掌握したことに憤慨し、リベラル派は民主主義が葬り去られたことに落胆。79年には、アメリカの傀儡となったパーレビ政権を打倒しようと国民がイラン革命を起こした。これによって、米外交にとって安定した支柱だったイランが最も不安定な要素に様変わりした。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story