コラム

トランプ政権がベネズエラを放っておけない最大の理由

2019年02月16日(土)14時40分

トランプ政権の後押しを受けて現政権打倒を目指すグアイド Manaure Quintero-REUTERS

<他国のことには関わり合わない方針だったはずなのに、イデオロギー戦争の一環として野党を強力に支援>

フアン・グアイドは、目まいがするような気持ちに違いない。ベネズエラの野党陣営を率いるグアイド国会議長は、国際的にはほぼ無名だったが、マドゥロ大統領に代わって「暫定大統領」に就任すると宣言し、一挙に世界の注目を集める存在になった。

マドゥロは退任を受け入れておらず、ベネズエラでは2人の大統領が併存する状態になっている。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、日本など多くの国がグアイド支持を表明している。

なかでも真っ先に熱烈な支持を打ち出したのがアメリカだった。トランプ米大統領は16年の大統領選以来、アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)を強く訴えてきた。他国のことに関わり合うのはやめる方針だったはずだ。どうしてトランプ政権は、いまベネズエラに介入しているのか。

米政府に対して最も好意的に解釈すれば、自由と民主主義を尊重しているからということになるだろう。ベネズエラ政府は、警察、医療、教育など、最低限の行政サービスを国民に提供できていない。数年前に経済状況の悪化に歯止めが利かなくなり始めて以降、成人の平均体重は約10キロも減った。

標的は「暴政のトロイカ」

難民危機が地域の安定を脅かす可能性も現実味を帯びてきた。現状に抗議する国民に対して、ベネズエラ政府は大量の身柄拘束と拷問、暴行で応じている。殺害された人も130人を超えている。

マドゥロが昨年5月の大統領選で再選されたのは、有力な対立候補の立候補を認めなかったからだと考えられている。ベネズエラ憲法には、大統領選挙が公正に実施されなかった場合は国会議長が大統領職に就くという規定がある。米政府はこの条文を根拠に、グアイドが政権に就くべきだと主張している。

もっとも、米政府を突き動かしたのは政治的動機だった可能性のほうが高い。マドゥロ政権は反米左翼的な性格が強い。米政府は、勝ち目のあるイデオロギー戦争と見なしてベネズエラに介入したようだ。アメリカの一部には、こうしたチャンスを渇望していた勢力がある。

ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は昨年11月、ベネズエラとキューバ、ニカラグアの3カ国を西半球の「暴政のトロイカ」と呼んだ。「『暴政のトロイカ』は莫大な犠牲と地域の不安定を生み、唾棄すべき共産主義の揺籃になりかねない......トランプ大統領の下、アメリカはこの3カ国の体制に直接的な行動を取っている」

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story