コラム

バイデンが中国とロシアにケンカ外交をふっかけた理由

2021年03月30日(火)16時00分

就任後初の記者会見で質問者を指名するバイデン(3月25日)LEAH MILLISーREUTERS

<プーチンを「人殺し」呼ばわりしアラスカで中国外交トップらを糾弾した「乱暴な外交」の真相は国内のある法案とも関係が>

バイデン米大統領の国内政策は、支持率が不支持率を15%上回る最高のスタートを切った。主要な政策課題と解決策について、多くの国民の意見はほぼ一致している。

アメリカ分断の原因は、これらの問題に党派性を持ち込む政治家の介入にある。バイデンは人々が直面する公衆衛生と経済の課題に集中的に取り組み、大規模かつ迅速な支援を提供することで、党派を超えた指導者になろうとしている。

就任後初の公式記者会見で2024年の大統領選を争う可能性がある共和党のライバルについて聞かれた際には、そのときまで「共和党が存在するかどうか分からない」と言った。

しかし、統治スタイルの変化を強く感じさせたのは外交面かもしれない。バイデンはロシアのプーチン大統領を「人殺し」「魂がない」人物と呼び、ロシア政府から強い反発を買った。

強硬なバイデン外交はアラスカでの米中対話でも続いた。ブリンケン国務長官とサリバン国家安全保障担当大統領補佐官は中国の外交トップに言葉の一斉射撃を浴びせ、中国政府が国内外で犯した罪を列挙した。世界における民主主義と自由の守護者というアメリカの役割を取り戻すため、バイデン政権が猛烈な勢いで進んでいることは明らかだ。

バイデンは世界的な民主主義の退潮を食い止め、中国の台頭を阻止せよと部下にハッパを掛けている。就任後初の記者会見では、投票率を下げようとする共和党の試みに最も強い反応を示し、投票規制のために全米の州議会で共和党がまとめた250以上の法案を「むかつく」「非アメリカ的」と表現した。国民の大半も同意見だ。共和党支持者も56%が投票規制に反対している。

表面的には、バイデン政権初期の外交政策は2つの軍事的な競争相手に対し、乱暴でプロらしくない言葉で批判したようにも見える。だがバイデンは、核となる統治理念を感情的に訴えると同時に、対立勢力とコミュニケーションを図る方法も直感的に理解している。

プーチンへの厳しい発言を撤回したり、対中批判を外交記録から削除したりすることはないだろうが、多くの問題を前進させるために両国と現実的に協力する姿は容易に想像できる。

中国に対する荒っぽい言葉遣いとその意図を質問されたバイデンは、習近平(シー・チンピン)国家主席との長い関わり合い(2人とも同時期に政権ナンバー2だった)や、大統領選後の2時間にわたる電話会談について語り、「対決は望まないが、非常に厳しい競争になることは分かっている」と指摘した。アラスカ会談での激しい衝突は、強硬な対中通商政策の前触れではないかという質問に対しては、「より大きな中国との関係のごく一部にすぎない」とかわした。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story