コラム

アメリカ社会は「大谷翔平騒動」をどう見ている? 有名コメンテーターでさえ「大谷も有罪」だと信じている理由

2024年04月03日(水)16時50分

newsweekjp_20240403022818.jpg

NBAのヒーロー、マイケル・ジョーダンにはギャンブルの問題があった ED WAGNER JR.ーCHICAGO TRIBUNEーTRIBUNE NEWS SERVICE/GETTY IMAGES

マイケル・ジョーダンは引退を表明した2年後に復帰したが、その空白の2年間はギャンブル漬けのジョーダンに対するNBAによるペナルティーだった可能性がある。ホームラン王のベーブ・ルースは近代野球を発展させたが、大酒飲みで女遊びが激しいことでも知られた。快進撃を続けていたタイガー・ウッズのゴルフ人生にブレーキをかけたのは、セックス依存と家庭崩壊だった。

パラダイムシフトを起こすようなスポーツ選手の偉業は、たいてい節度のなさとセットになっている。途方もない野望と才能を兼ね備えた超人的プレーヤーであればあるほど、仕事を離れると抑制が利かなくなるらしい。仮にもギャンブルに手を出せば、凡人には想像もつかない大金をつぎ込むだろう。そう、火のない所に煙は立たない。

そしてアメリカ人は、スターの素顔を知りたがる。いつもはいているのはボクサーパンツかブリーフかとテレビのトーク番組で問われて、苦笑いしつつ質問に答えるスター選手に喜び、SNSに毎日投稿してくれることを期待する。神様級のアスリートは特別なブランドになる。超大物アスリートがスポーツ以外の分野で、本業の何倍もの収入を得ているのも偶然ではない。

大谷が慎重な性格であるために(発言が全て別の人物によって通訳されるという事情もあって)、スターのことを何でも知りたがるアメリカ人は今回の件で、すかさず別の点にも疑念を抱き始めている。大谷の結婚発表にチームメイトは驚いたとされるが、誰かとデートしていたことにも気付かなかったというのは、どう見てもおかしい。

個人的には、筆者は大谷の慎み深さを好ましく思う。だがアメリカ人はスキャンダルが起きると、不正行為を示す形跡が過去に一切なかったとしても、不可解な態度に説明をつけようと勝手に推測し始める。しかも今回のスキャンダルは、アメリカの野球史と文化風土のいずれにも関わっている。ピート・ローズの通算安打記録は神聖化されているが、そのローズも野球賭博に手を染めて球界を追われた。大谷がスポーツ賭博に関与したことはないと強調したのも、そうした背景があるためだ。

しかし今のアメリカには、暗号資産やミーム株に大金をつぎ込み、火星に植民地を造るという夢物語に投資し、ゲーム感覚で株取引やスポーツ賭博に手を出す人がたくさんいる。だから大谷のスキャンダルにわが身を重ね、あれこれ推測したくなる人が多いのも無理はない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金融デジタル化、新たなリスクの源に バーゼル委員会

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story