コラム

中国の花見も梅・牡丹より今は桜

2018年04月18日(水)18時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

(c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<もともと中国人は伝統的な美意識を代表する梅や牡丹の花が好きだったが、最近は日本の影響で各地に桜の名所ができて賑わっている>

2年前の3月、渋谷109 の大型スクリーンに広告が流れた。「武漢/世界の桜の郷/武大へ花見にいらっしゃい!」

「武大」は中国・湖北省の武漢大学。大学内には昔、戦争中に日本軍が植えた「国恥の桜」と、日中国交回復後に友好の印として植えた「友好の桜」の計1000 本以上の桜がある。この数十年、ネットの普及で「武大桜」は人気が広がり、中国の花見の名所になった。多いときには1日20万人が殺到して、花見客が花びらより多いと揶揄されたこともある。

でも、武大桜はもう人気を独占できない。中国各地に次々と桜の名所ができたから。北京市にある玉渊潭公園や上海の魯迅公園への花見客は多く、また昨年開園した杭州の桜花園では6万本が植えられ、今年も桜祭りでかなりにぎわっていた。

もともと中国人は梅や牡丹(ボタン)が好き。梅は寒い冬にりりしく咲く姿がとても高潔で、花の君子として賛美されている。また牡丹もその存在感たっぷりの華麗な姿で花の王者と言われている。これらは中国の伝統的美意識を代表する花で、個性と自己主張が強い中国人に実によく似合っている。

でも、梅と牡丹は近年桜に負けているらしい。これは中国のネットを覆い尽くす桜の開花情報を見ると分かる。梅と牡丹はこんな待遇ではない。代表的な桜のソメイヨシノは1つ1つが繊細で、何千何万もの花が一斉に咲いて一斉に散っていくのは迫力があって美しい。個人的でなく団体的な花だから、日本人の集団的性格によく似合っている。

でも、こういう集団的性格の花が今は中国で大人気。「桜の花の落ちるスピードは秒速5センチメートル」という新海誠作品のセリフを中国の若者たちは皆知っているらしい。漫画・アニメをはじめ、日本文化の影響を受けている中国の若者たちは桜が好き。反日の愛国青年も、桜の原産地は中国だ、日本じゃなくてもともと中国の花だよと主張する。

美しいものに国境はない。ただ、やはり中国人は梅と牡丹を冷遇しないでほしい。それこそ中国人の個性と心だから。それに桜の起源は中国だと言っても、ソメイヨシノは日本人が人工的につくったクローン品種で中国とは全く無関係だ。

【ポイント】
『秒速5センチメートル』

2007年に公開されたアニメ映画。冒頭に「ねえ、秒速5センチなんだって、桜の花の落ちるスピード」というヒロインのセリフがある

桜の原産地
日本の専門書『櫻大鑑』は、中国、朝鮮半島、日本が陸続きの時代にヒマラヤのサクラが日本に東進して種類の分化が行われた、と記述している

<本誌2017年4月24日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO

ビジネス

米総合PMI、4月は50.9に低下=S&Pグローバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story