コラム

トランプの「言い間違えた」を信じられる?(パックン)

2018年08月13日(月)16時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

(c) 2018 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<ロシア疑惑に関してアメリカの情報機関よりプーチン大統領の方が信用できるような発言をして猛批判を浴びたトランプ。「言い間違えた」と訂正したが......>

フィンランドの首都ヘルシンキで7月16日に行われた米ロ首脳会談後の会見で、記者からドナルド・トランプ米大統領への鋭い質問があった。アメリカの情報機関はどれもロシアが2016年の大統領選挙に介入したことを確認している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は否定している。あなたはどちらを信じますか?と。

トランプはこう答えた。「プーチンは(犯人は)ロシアじゃないと言っている。これだけは言っておこう......」。その続きが「I donʼt see any reason why it would be(〔犯人がロシアである〕理由は何も見当たらない)」という爆弾発言。自分の政権が仕切る自国の情報機関より、対立関係にある外国の大統領を信じる。民主主義制度の根幹となる選挙に介入した犯人をかばう。反逆行為とも騒がれるような言語道断の言動だ。

当然、政界もメディアも世論も反発で沸き上がり、翌日トランプは I misspoke(言い間違いだった)と訂正した。wouldnʼt と would を混同したが、本当は「ロシアじゃない理由は何も見当たらない」と言いたかったと、苦しい弁解をした。

そう言われても、国民のほとんどは信用しない。理由は2つある。1つは、ロシアに対するトランプの態度。訂正した後、「ロシアが犯人だという、情報機関の判断を信じる」と言いながら、「ロシア以外も考えられる」と、再び懐疑的な姿勢を見せた。

その次の日には、コーツ国家情報長官がロシアからのサイバー攻撃への警戒を呼び掛けているなか、トランプは会見で「ロシアは今もアメリカを狙っているのか」と聞かれて No と答えた。さらに、プーチンを今秋にホワイトハウスに招待することが発表された。犯人だと思っているなら、なぜVIP扱いする?

もちろん、これらも言い間違いの可能性はある。本当は「ロシア以外は考えられない」とか「Yes」とか「ホワイトハウスに招待しない」とか言いたかったのかもしれないね。

風刺画が指摘しているのは、国民が信用しないもう1つの理由。それはトランプのウソ歴だ。政治家の発言の真否を精査するワシントン・ポスト紙のファクトチェッカーによると、就任からの1年半余りでトランプは4200以上もの「真実に反する、または惑わせるような発言」をしているという。つまり、毎日8回近くのペースで俗にいう「ウソ」をついているのだ。

そんな背景があったら、「言い間違いでした」という主張を信じるより、「言い間違いでした」という主張自体もウソだったと思ってしまうよね。

<本誌2018年8月14&21日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:「トランプ2.0」に備えよ、同盟各国が陰に陽

ビジネス

午後3時のドルは一時155.74円、34年ぶり高値

ビジネス

東京ガス、25年3月期は減益予想 純利益は半減に 

ワールド

「全インドネシア人のため闘う」、プラボウォ次期大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story