コラム

共産党がなければ中国には仏もいない

2019年12月17日(火)17時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Democracy and Religion with Chinese Characteristics

<中国では如来仏も共産党の指導に従う、そうでないと取り壊される>

中国は独裁国家だ――ほとんどの日本人はそう思い込んでいるが、ちょっと違う。中国は実は「民主国家」なのだ。

冗談じゃなく、ホントだ。だって、中華人民共和国という国名は「人民が国家の主人公」という意味。しかも、共産党が提唱する「富強」「文明」「和諧」「愛国」など計24 文字の社会主義の核心価値観の中に「民主」もちゃんと入っている。

中国政府はかつて香港行政長官の普通選挙を強く支持していた。人民日報が「法律によって香港の普通選挙を推進しよう。これは中央政府としての絶対に揺るぎない立場だ」という社説を出したこともある。

また、ほとんどの人は中国の政党が共産党だけと思っているが、これもまた違う。実は共産党のほかに8つの民主党派と呼ばれる野党も存在している。

ただし、全ては「共産党の指導の下に、共産党の指導に従う」という条件が付く。中国政府は香港の普通選挙を支持するが、その前提として立候補者は自分たちが指定した者じゃないとダメだ。野党の存在も認めるが、共産党の指導に従わなければならない。そうでなければ国家政権転覆罪に問われる。

宗教も同じだ。中華人民共和国憲法の36条に「中華人民共和国の公民は宗教の信仰自由を有する」とあるが、これも党の指導の下、党の指導に従うという条件付き。だから、中国のお寺では中国の国旗を掲げ、「紅歌」を歌う風景をよく見掛ける。1500年余りの歴史を持ち、少林拳発祥の地として日本でも有名な少林寺もその1つ。河南省の少林寺の僧侶が初めて国旗掲揚する映像がネットに流出したとき、中華圏のSNS上でかなり話題になった。

「共産党がなければ新しい中国はない」という紅歌の名曲は、いま中国の寺でも鳴り響いている。そして、「共産党がなければ如来仏はない」というスローガンも中国ネットの「名言」になっている。中国では、如来仏も党の指導に従う。そうでないと取り壊される。

「泥菩薩過江、自身難保(土で作られた菩薩様は川を渡るとき、衆生どころかわが身さえ救えない)」という言葉そのままに。

【ポイント】
紅歌

中国共産党をたたえる革命歌の総称。抗日戦争の軍歌も含む。毛沢東時代によく歌われた。文化大革命の記憶を呼び起こすとして毛嫌いされる一方で、当時を懐かしむ老人もいる。

少林寺
河南省にある古寺。496年創建。拳法の1つである少林拳の発祥の地として知られる。禅宗の祖、達磨大師が座禅して悟りを開いた場所でもある。2010年に世界文化遺産に登録。

<本誌2019年12月10日号掲載>

20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUが外相会合、イラン制裁強化に向けた手続き開始へ

ワールド

米国務長官、ロシア防衛産業への中国支援問題を提起へ

ワールド

イスラエル戦時内閣、イラン攻撃巡る3度目閣議を17

ビジネス

英インフレ低下を示す力強い証拠を確認=ベイリー中銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    【画像・動画】ウクライナ人の叡智を詰め込んだ国産…

  • 10

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 5

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story