コラム

アフリカ系を厚遇したり、迫害したり......中国のアフリカ対応はご都合主義

2020年05月04日(月)11時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China's Shameful Opportunism / (c)2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国は外交的な理由からアフリカからの留学生たちを厚遇してきたが、それは投資として戦略的に受け入れているだけ>

「急に家を追い出され、飲食店もホテルも強制的に退去させられ、抵抗すると警察を呼ばれて拘束される。中国に暮らすアフリカ人として本当に怖い!」

新型コロナウイルスのせいで南部の広州市に暮らすアフリカ系住民がとんだ目に遭った。そしてこれが「人種差別」だとアメリカなどのメディアが大きく報道した。アフリカ諸国も「明らかな人権侵害」だと中国政府に強く抗議した。

確かに人権侵害だが、人種差別というより感染への過剰反応だろう。中国はアメリカのような多人種社会でなく、普通の中国人に人種差別意識があるかどうかは議論がある。むしろ問題なのは、中国政府が被害に遭ったアフリカ系住民を保護せず、事件を「なかったこと」にしたことだ。

中国政府の「アフリカ系」への対応はご都合主義だ。中国は外交的な理由から、これまでアフリカからの留学生たちに手厚い奨学金や快適な学生寮という「超国民待遇」を与えてきた。山東大学が昨年、アフリカ系を含む留学生1人につき3人の異性の中国人学生を「学習パートナー」として募集すると、SNS上で物議を醸した。

中国政府は虐げられた人種を尊重しているわけではなく、ただ投資として戦略的にアフリカからの留学生を受け入れているだけ。中国の特権階層が面倒を見ている人であれば、肌色や人種は関係なしに、中国から追い出されることはまずない。

中国のSNSに最近こんな言葉が広がった。「五四運動が終わって100年、徳先生と賽先生は来なかったが譚徳賽先生が来た」。「徳先生と賽先生」はデモクラシーとサイエンスを擬人化した言い方。「譚徳賽先生」はWHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長のこと。つまり、1919年の五四運動から100年たっても民主と科学は中国に来ないけど、代わりにテドロスが寄付金を受け取りに来たと――いう皮肉だ。

エチオピア出身で「中国寄り」のテドロスは、決して広州に暮らすアフリカ人のように警察に拘束されない。「譚書記」と呼ばれる彼は中国人民、いや中国特権層の「老朋友(古い友人)」なのだから。

【ポイント】
欢迎来中国留学 全额奖学金 学伴计划

「中国留学を歓迎します」「全額奨学金」「学習パートナー計画」

五四運動
1919年5月4日、北京の学生による日本の中国侵略抗議デモをきっかけに始まった愛国運動。この運動に伴い、民主主義と科学の導入と封建的文化・制度の否定が呼び掛けられた。

<本誌2020年5月5・12日合併号掲載>

20050512issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落も=

ビジネス

ボーイング、7四半期ぶり減収 737事故の影響重し

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に

ビジネス

米テスラ、従業員の解雇費用に3億5000万ドル超計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story