コラム

「原神」大ヒットでも、日本の「オタク文化」をこれからも中国が守ってくれる理由

2023年06月12日(月)13時35分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
原神

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国企業が開発したスマホゲーム『原神 Genshin』が日本で大ヒット。しかし、日本の「オタク文化」の世界的地位は揺るがない>

「中国企業miHoYo(ミホヨ)が開発したスマホゲーム『原神 Genshin』が日本で大ヒットしている。『鬼滅の刃』『ポケモン』よりオタク層の支持が熱い......。たった6カ月で1000億円超を売り上げた」

衝撃的な記事だ。中国企業が開発したゲームだが、『原神』の設定やキャラクターデザインは日本の影響を強く受けている。

miHoYoの創業者チームは1980年代生まれの中国人オタク。日本の2次元文化で育った彼らは日本の作品の大ファンで、『学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッド』『新世紀エヴァンゲリオン』など日本のアニメ・漫画から多くのインスピレーションを得て、自らの創作に応用した。

オタクが親しみやすい日本アニメっぽい雰囲気も、熱い支持を集める理由だろう。日本人が作ったものより日本っぽい、日本で売れるゲームを中国人が作った......。

アニメや漫画、ゲームなど世界のオタクに愛される日本の文化は中国に負けたのか?

実はアジア初の長編アニメ映画『西遊記 鉄扇公主の巻』が制作されたのは、41年の中国だった。制作者は上海の万籟鳴(ワン・ライミン)と万古蟾(ワン・クーチャン)の万氏兄弟。

42年に日本でも公開され、当時14歳だった手塚治虫に大きな刺激を与えた。戦後の61年には、同じ万氏兄弟のカラー長編アニメ映画『大暴れ孫悟空』が公開され、後にロンドン国際映画祭の賞を受賞した。これは宮崎駿監督も感銘を受けた傑作だった。

中国アニメがそのまま発展し続ければ、世界のアニメ史を塗り替えただろう。だが不幸なことに、輝き始めた中国アニメは文化大革命に遭遇した。激しい政治闘争と過酷な言論弾圧で人々は思考の自由を失い、創造の泉も枯渇した。

もし現在の中国がイデオロギーを強調せず、創作者の表現の自由に干渉しなければ、日本の2次元文化の影響を受け成長した中国の若いクリエーターは、優れた作品を完成できるだろう。

しかし「文革2.0」に入った最近の中国の厳しい検閲を見ると、彼らの創造の泉はまた枯渇するように思える。

表現の自由のない社会に、優れた娯楽作品は生まれない。中国の愚かな検閲制度は、日本の「漫画・アニメ大国」の地位を守っているのかもしれない。

ポイント

游戏开发/动画师
ゲーム開発/アニメーター

miHoYo
中国名は「米哈游」。2011年頃、上海交通大学で学ぶ「80后(80年代生まれ)」の蔡浩宇(ツァイ・ハオユィ)が仲間2人と創業。従業員4000人。

万氏兄弟
籟鳴と古蟾の双子の兄弟が始めたアニメ制作を弟の超塵(チャオチェン)と涤寰(ティーホアン)が手伝った。第1作は1925年制作の広告アニメ。文革で4人とも批判された。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

気候変動リスク推計、米銀はデータとモデルに大きな課

ビジネス

経常黒字が過去最大25兆円超、増える投資収益 国内

ビジネス

消費支出、23年度平均は前年比3.2%減 物価高響

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、米利下げ観測の強まりを好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 5

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story