コラム

新型コロナ対策でも「真実」を見ようとしないトランプ(パックン)

2020年03月12日(木)10時15分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

©2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<感染対策には真実を認める知性と指導力が必要なはずだが......>

イラン中部のコム市では毎日、大勢の巡礼者がイスラム教シーア派の聖人を祭る廟の壁を手や唇で触れたりしてお参りをする。ウイルスの接触感染のお手本と言えそうな行為だ。でもコムを中心に新型コロナウイルスの感染が拡大した後も、イラン政府は巡礼を止めなかった。

また、政府は2月28日に国内の死亡者を34人と発表したが、BBCが病院へ電話取材したところ本当は210人を超えていた。ハサン・ロウハニ大統領は「神のおぼしめしで、ウイルスを乗り切れるだろう」と神頼みのようだが、コムのシーア派指導者も対策の指揮を執る保健省次官も副大統領も感染している。

疾病対策に必要なのは信仰と宗教ではなく、真実と指導力だろう。

韓国の例も参考にしよう。新天地イエス教会では信者が密集して礼拝を行うが、神様に失礼だという理由からマスク着用は禁止。国内の感染拡大が発覚したら、政府は情報公開とウイルス検査の徹底、つまり真実と指導力で対抗している。正解だと思われるが、残念ながら、感染の震源地である大邱市の感染症対策担当者も感染した。その人も新天地の信者だ。

アメリカでは疾病対策センター(CDC)が、流行するかどうかではなく「いつ流行するかの問題だ」とする一方、「コロナウイルスはとても制御されている」し「奇跡のように、ウイルスは消える」と信じている人がいる。この熱い信仰心を示したのは、新興宗教でも宗教国家でもなく、世界のリーダー(であるはずの)ドナルド・トランプ大統領。はい、大学で演説を頼まれた際に聖書の読み方を間違えたあのトランプ大統領だ。

彼は、感染者が60人を超えるのに15人だとか、暖かくなればウイルスは死ぬとか、コロナウイルスは民主党のデマだとか真実にそぐわない主張をしている。風刺画でも「警告を出す必要はない(No Need For Alarm)」と言っている。

その上、2018年に国家安全保障会議(NSC)の疾病対策チームを解散させ、CDCの世界疾病予防の予算を8割も削減したトランプは指導力も問われる。そこで、彼がコロナウイルス対策担当に選んだのはマイク・ペンス副大統領だ。

敬虔なキリスト教徒であるペンスはインディアナ州知事時代、エイズがはやるなか注射針の無料配布を提案されたとき「家に帰って神に祈る」として、流行に拍車を掛けたといわれる。だが、今回は違う! 指名されてすぐ現地に駆け付けた! それも感染者がいないフロリダ州へ、政治資金パーティーへ出席しに! 政治家のこの「病気」もはやっているのかな?

【ポイント】
MY DOCTOR SAYS I'M PERFECTLY HEALTHY!
私はすこぶる健康だと主治医は言っている。

<本誌2020年3月17日号掲載>

20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウント買収交渉に参加か アポロと協

ビジネス

ネットフリックス、1─3月加入者が大幅増 売上高見

ワールド

ザポロジエ原発にまた無人機攻撃、ロはウクライナ関与

ビジネス

欧州は生産性向上、中国は消費拡大が成長の課題=IM
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story