コラム

新型コロナのデマ情報を広めるトランプ、それをただす勇者ファウチ(パックン)

2020年04月09日(木)17時20分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Fauci to the Rescue / (c)2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<一部の州がコロナ対策に出遅れている。それらの州の共通点は、感染者数の少なさではなく、州知事が共和党員で州民にトランプ支持者が多いこと>

アメリカは格差社会になっている。いや、貧富ではなく疾病対策の話。自治体によって、新型コロナウイルス対策の隔たりが大きい。感染拡大を防ぐために学校や会社の閉鎖、イベントの中止、外出規制などの「社会的距離戦略」を早めに導入した州もあれば、それを怠っている州もある。この時間差だけで死者が数千人増える試算もある。

なぜ一部の州が出遅れるのか。ワシントン大学の研究チームがデータから原因を調べた。結果、対策が遅れる州の一番の共通点は、州内の感染者数が少ないことなどではなく、州知事が共和党員で州民にドナルド・トランプ大統領の支持者が多いことだった。 なんでトランプ寄りの人は初動が遅いのか? 理由はトランプ本人の言動にあろう。トランプは「ウイルスは4月までに消える」や「数日で感染者ゼロになる」などと、ずっとコロナウイルスの脅威を過小評価していた。国内の流行が進むなかでも事実無根の夢物語を語り続けた。グーグルがコロナ対策ウェブサイトを作った! マスクは足りるし大量に製造している! 検査キットがあり余っている! 特効薬がある! ワクチンはすぐにできる! いくら食べても太らない! モテ期がくる! SMAPは再結成する!

あっ、少し暴走し過ぎた。失敬。

こんなdisinformation(偽情報)を拡散するトランプと同じ共和党の州知事が仕切り、トランプ支持者の多い州で対策が遅れるのは当たり前。もちろん、トランプが仕切る連邦政府の対策も遅れた。責任者が定まらない。政府発信の情報が矛盾する。方針が二転三転する。防護服や病床、人工呼吸器の確保や配布が滞る。外出制限など全国規模の統一対策がないなど、政権のincompetence(無能さ)やchaos(混乱)が目立つ。

そこで立ち上がったのが、米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長。30年にわたり、いろいろな政権のnormal leadership(正常なリーダーシップ)の下で数々の疾病対策に励んだアメリカ随一の感染症専門家だ。彼は、トランプの広報機関たるフォックス・ニュースに出るときでも、大統領と一緒に記者会見を行うときでも、トランプの偽情報を一つ一つ直し、正しい情報を発信する勇者だ。

偽情報も愚策も命取りになるこの時期に、これこそ国民が求めること。トランプよりトゥルース(事実)! フェイクよりファクト! フォックスよりファウチだ!

【ポイント】
OUR MAIN GOAL IS TO FLATTEN THIS CURVE...
われわれの主な目標はこのカーブを平らにすることだ。

GOD HELP US!
神よ助けたまえ!

<本誌2020年4月14日号掲載>

20200414issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月14日号(4月7日発売)は「ルポ五輪延期」特集。IOC、日本政府、東京都の「権謀術数と打算」を追う。PLUS 陸上サニブラウンの本音/デーブ・スペクター五輪斬り/「五輪特需景気」消滅?

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、予想外の利上げ 通貨支援へ「先を

ビジネス

超長期中心に日本国債積み増し、利回り1.9%台の3

ビジネス

中国不動産の碧桂園、元建て債3銘柄の初回支払い延期

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story