コラム

LGBTQについて「子供」にも教えるべき──そう考える大人は「変態」だって?(パックン)

2022年04月20日(水)10時39分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
Donʼt Say Gay Law

©2022 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<フロリダ州で、小学校低学年まで性的指向などについて教えることを禁じる州法が成立。変態で小児性愛者の先生から子供を守るためとされるが>

幼稚園から小学校低学年までは、教室で性的指向や性自認について教えることを禁じる──。これがフロリダ州デサンティス知事(共和党)の署名で3月28日に成立した州法の要点。変態で小児性愛者の先生の性的搾取(グルーミング)から子供を守るために必要だという。

一方反対派は、性に関する教育は現代社会に対する理解を高めるためだけではなく、LGBTQなど性的少数者の生徒が学校で受け入れられるよう話し合うために必要なときもあり、また言論の自由を制限しないほうがいいとも考える。それに対して、支持者は「おまえらも変態なグルーマーだ」と反論......。

反対派はこの法律を「ノーマル」な異性愛の結婚や恋愛については教室で話せるのに、それ以外は禁じる点からDonʼt Say Gay Law(ゲイ〔同性愛〕と言うな法)と揶揄している。知事は「法律にそんな文言は入っていない!」と反発している。確かにそうとは書いていないが、教師がLGBTQについて教えると生徒の親に告発されるかもしれず、抑止効果はありそう。法律に「痴漢はするな」とは書いていないが、「痴漢は犯罪です」というポスターは珍しくない。それと同じ空気をつくりたいのだろう。

保守派はしばしば性的指向は生まれつきではなく、生活上の選択(lifestyle choice)だと言う。つまり「LGBTQなどの方々は異性愛の道を選べばいい!」という主張だ。

風刺画では児童が知事に向けて、bigot(差別主義者)の生まれ方について同じ理屈を駆使している。相手の武器を当の本人に向ける巧みな議論のテクニックで、しかもうまい冗談だ。子供は差別主義者として生まれるはずがないし、「私は差別主義になる!」と選択する人はいないだろう。だから笑える。

実際には差別主義は育った環境から自然に、無意識に身に付くものと考えられる。それを防ぐコツは、若いうちにダイバーシティ(多様性)について学ぶことだ。多数派や自分自身と違う特徴を持つ人でも、それぞれの個性を認め尊重する教育を受ければ、差別主義者に育たずに済むはず。

残念ながら、今回の法律はそんな教育を禁じるようだ。だから、僕も反対派。グルーマーと言われてもスルーだぁ。

ポイント

GOVERNOR DESANTIS, WERE YOU BORN A BIGOT OR IS THAT A LIFESTYLE CHOICE?
デサンティス知事は生まれつき差別主義者なの? それとも生活上そういう選択をしたの?

“DON’T SAY GAY” 法
フロリダ州の同法に対してはニューヨーク市やディズニー社など州内外から強い批判が寄せられた一方、保守色が強い12州では同趣旨の法律を成立させる動きも広がっている。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シンガポール航空機、乱気流で緊急着陸 乗客1人死亡

ビジネス

アストラゼネカ、30年までに売上高800億ドル 2

ビジネス

正のインフレ率での賃金・物価上昇、政策余地広がる=

ビジネス

IMF、英国の総選挙前減税に警鐘 成長予想は引き上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story