コラム

ニクソンですら品行方正?──罪人に「良心も自制心もない」と言われるトランプ

2022年07月04日(月)13時19分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ニクソン

©2022 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<税金トラブル、不祥事、権力乱用など、ニクソンとトランプには数多くの共通点がある。何よりも二人は文通仲間だった。ニクソンは共和党を追われたが、今や反トランプ議員が党から追われている>

トランプとニクソンは共通点が多いが、一部は偶然ではない。2人は昔文通していたし、トランプは「法と秩序」とか「狂人理論」など、ニクソンのレトリックや外交術を意図的にまねした面がある。

おそらく狙ってもいない共通点も多い。税金トラブル、不祥事、権力乱用、犯罪の疑惑なども両者の特徴だ。だが、大きな相違点がある。所属する共和党の2人への反応だ。

例えば、脱税疑惑を突っ込まれたとき。ニクソンの場合は大問題になり、確定申告書を開示した。トランプは「俺は賢いからな」と納税しない自慢をし、一切公開しない。それでも「有名税」を払っているからか、共和党員には許された。

また、1972年のウォーターゲート事件で不法侵入、盗聴などの疑いでニクソンの側近が訴追されたとき、ニクソン自身も大陪審に「訴追されない共謀者」と認定され、大騒ぎに。

トランプも、顧問弁護士が有罪になった選挙法違反の裁判で事実上の「起訴されない共謀者」となったが、共和党はぴくりとも反応しない。では訴追されたら違ったか? 

そうではない。トランプは訴追に当たる弾劾を2回もされたが、共和党からの支持は揺るがない。実はほかにも共通点はたくさんある。

■ニクソンは、ウソをついた。トランプも大統領の任期中、毎日平均で21もの「真実と異なる発言」をした。

■ニクソンは、司法省に働き掛け、捜査を止めようとした。トランプは、FBI長官を解任するなど捜査を妨害した。

■ニクソンは、選挙に勝つために不正をした。トランプは退任後の今も、敗北した選挙の結果を覆そうとしている。

こう見ると、「共通点」はあるが、度合いの違いが著しい。ニクソンの法律顧問だったジョン・ディーンは「ニクソンは恥を知る人。良心も......自制心もあった。でもドナルド・トランプはどうかな」と表現する。ちなみに、こう分析するディーン自身も司法妨害で有罪になっている。

罪人に「良心も自制心もない」と言われたトランプだが、共和党によって辞任に追い込まれたニクソンと違って、いまだに党に擁護され、むしろ反トランプ議員が党から退けられている。

初めて思ったが、ニクソンの時代が恋しい。

ポイント

50 YEARS AFTER WATERGATE......
ウォーターゲート事件から50年......

I AM NOT A CROOK...BY TODAY'S GOP STANDARDS!
私はペテン師ではない...今日の共和党の基準では!
(ニクソンがウォーターゲート事件を弁明して発言した「私はペテン師ではない」のもじり)

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story