最新記事

BOOKS

毎年1000社ベンチャーが生まれる「すごい」国イスラエルの秘密

2019年1月31日(木)16時25分
印南敦史(作家、書評家)


 自動運転車が事故を避けるためには、車載コンピューターが車線、交通標識、障害物、歩行者、前を走っている車、自分が走っている車線に割り込んでくる車、路面の凍結や積雪など、周囲360度の中で起きていることを把握し、瞬時に解析してブレーキやアクセルを作動させなくてはならない。この機能は、高度ドライバー支援システム(ADAS)と呼ばれ、自動運転車に不可欠の技術である。未来の車はインターネットに接続された「コネクテッド・カー」となる。
 1999年に創設されたモービルアイは、ADASの中核となる、画像情報処理システムのパイオニアだ。同社は、自動運転技術が持つ潜在性に世界で最も早く気づき、その実用化をめざした会社である。(15ページより)

現在、世界の大半の自動車メーカーは、モービルアイの技術なしには衝突防止や自動運転車の研究開発が進まないといっても過言ではないとすら著者は言う。

事実、2016年末の時点で、米国のゼネラル・モーターズ、フォード、クライスラー、ドイツのBMW、フォルクスワーゲン、アウディ、日本の日産、本田、三菱、マツダ、フランスのルノー、PSAプジョー、イタリアのフィアット、スウェーデンのボルボ、韓国の現代、起亜など、26社の自動車メーカー・部品メーカーがモービルアイと提携したり、技術を購入したりしているそうだ。

同社の技術がすでに世界中の約1500万台の車に使われていると聞けば、そのポテンシャルを実感できるのではないだろうか。

もちろんこれはほんの一例に過ぎず、つまりモービルアイだけが突出しているということではない。表現としては、イスラエルという国全体がイノベーション力を持っているとしたほうが適切なのだろう。

事実、イスラエル人は起業家精神が旺盛で、毎年およそ1000社のベンチャー企業が誕生している。そして優秀な技術力に注目した外国企業や投資家から多額の資金が流れ込んでいる。

投資しているのは、金融機関などの機関投資家や富裕層。彼らは将来性のあるベンチャー企業に投資することによって、運用益の拡大を目指しているのだ。当然のことながら成功が保証されているわけではなく、ハイリスク・ハイリターンだが、それでも投資家が群がるのは、それだけの価値があると見なされているからなのだろう。

ところでイスラエルのイノベーションの源泉について考えるとき、興味深いことがある。イスラエル国防軍で電子諜報を担当する「8200部隊」の影響力の大きさだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル157円台へ上昇、34年ぶり高値=外為市場

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中