最新記事

米中貿易戦争

米中貿易、ほぼ全面的な関税が「ニューノーマル」の恐れ

2019年10月18日(金)09時28分

トランプ米大統領は、中国との貿易協議における第1段階の合意を「これまでで最も素晴らしく、大規模な取引だ」と自画自賛し、中国が最大500億ドルの農産品購入を受け入れたと胸を張った。写真は上海で7月30日撮影(2019年 ロイター/Aly Song)

トランプ米大統領は、中国との貿易協議における第1段階の合意を「これまでで最も素晴らしく、大規模な取引だ」と自画自賛し、中国が最大500億ドルの農産品購入を受け入れたと胸を張った。ただ文書で正式合意されたわけでなく、中国製品向けの数千億ドル規模の関税は残したままで、今後は両国とも輸入関税を課すのが「新標準」となる懸念が生じつつある。

ホワイトハウスの記者会見は今回の部分合意にはほぼ言及しておらず、中国政府の公式声明からは、同国側が実際には何も合意していないと考えている様子がうかがえる。

そもそも関係者の話では、貿易戦争の発端で米政府の不満の核心となっている中国の国家主導型経済モデルは、部分合意には解決策がほとんど含まれていない。このモデルに基づき、中国は外国企業に技術移転を強要し、不公正な補助金を支出しているほか、世界的な生産設備過剰を助長している。

一方で米財務省の国際問題担当次官を務めた、PGIMフィクスト・インカムのチーフエコノミスト、ネーサン・シーツ氏は、米国はこの問題で何も柔軟性を見出していないと指摘。部分合意が着地点になれば、中国に相当な水準の関税を本当に恒久的に課すのかという点が問題になるとの見方を示した。

貿易専門家や中国市場のアナリストによると、米中は5月がそうだったように結局個々の問題で11月半ばに予定される首脳会談までに折り合えない可能性が大きい。また第1段階の正式合意が成立したとしても、中国はより困難な第2段階に必要な譲歩には気乗りせず、むしろ米国から高い関税を適用される方を選ぶだろうという。

パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のモハメド・エラリアン氏は2009年、金融危機後の低成長、低インフレ局面を「新標準」と描写したが、それから10年を経てそうした世界が永遠に続く恐れが出てきた。米国が大半の中国製品に高い関税を課し、中国もほとんどの米製品に関税を発動することで世界経済の足を引っ張る半面、中国の根本的な行動変化は起きないからだ。

米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国貿易専門家スコット・ケネディー氏は、部分合意は両国にとって当面は状況を前に進めるには十分とはいえ、いずれトランプ政権が協議を放棄し、中国企業は制約を受けなくなると予想した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P横ばい、インフレ指標や企業決算

ワールド

メリンダ・ゲイツ氏、慈善団体共同議長退任へ 名称「

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、今週の米経済指標に注目

ワールド

原油価格上昇、米中で需要改善の兆し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中