最新記事

米経済

「アメリカでインフレが起きている」は本当か、単なる経済再開の副産物か

Is Inflation a Problem?

2021年6月16日(水)20時03分
ジョーダン・ワイスマン
値上がり(イメージ写真)

ILLUSTRATION BY SEFA OZEL/ISTOCK

<アメリカでの物価の急騰は過剰な政府支出が招いた危機か、それとも一時的な物価上昇にすぎないのか>

いまアメリカで強まるインフレ懸念について本当のことを知りたい? だったら、少し掘り下げて考えてみよう。

アメリカでは過去2カ月間、物価の急騰が続いている。6月10日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は、市場予想を上回って前月比0.6%の上昇だった。4月の0.8%に次いで、ここ約12年半で2番目の伸び率だ。

これについて一部のインフレ「タカ派」は、政府が新型コロナウイルス関連の対策に支出し過ぎた結果だと指摘する。政府の過剰な支出が過剰な需要を生み、それが今後、物価上昇の連鎖を招きかねないという。

問題は、いま消費者が目の当たりにしている物価上昇が一過性のものなのか、それとも何かもっと持続的で危険なものの始まりなのかだ。インフレ「ハト派」は、物価上昇は経済活動の再開に伴う問題が大きな要因で、一時的なものでしかないと主張する。

いま起きているインフレのかなりの割合に寄与しているのは、コロナ禍の影響を受けた個人消費部門のごく一部のカテゴリー。主に輸送関連だ。5月のCPI上昇分の半分以上は、新車や中古車、レンタカーの価格や航空運賃の上昇によるものだった。

航空運賃の上昇は、空の旅が再開していることが理由。自動車価格の高騰は、サプライチェーンの再始動に伴いディーラー在庫が不足し、供給が需要に追い付いていないことが原因だ。どちらも時間がたてば、安定するだろう。

投資家も、インフレの大部分は一時的なものだという考え方を支持しているようだ。5月のCPIが発表されても、目立った反応はなかった。

期待インフレ率は下落

発表があった10日は株価がわずかに上昇した一方で、米国債の利回りがやや下落した。市場が本当に長期的なインフレを懸念しているなら、投資家は物価上昇に合わせて利回りの上昇も求めるから、国債利回りは上昇するはずだ。

だが10年債の利回りは5月前半に1.69%まで上昇した後、徐々に下落して先週は1.5%を下回った。

5年債と10年債のブレークイーブンインフレ率(市場が予想する期待インフレ率)も下落している。この動きを見る限り、金融界は5月のCPI値のようにインフレを示す数字について、さほど心配していないようだ。

ただし、債券市場は主に大手銀行による水面下でのポートフォリオ調整の影響で、インフレに関する投資家の懸念があまり反映されていないともいわれる。加えて過去1年間は各銀行が、規制上の要件の緩和から多くの債券を購入しており、それが国債の高価格と低利回りの維持に大きく寄与している。

だがそうだとしても、1年間続いている債券買い入れが、なぜ今になって突然の利回り下落を引き起こしているのかは分からない。

投資家はインフレのデータを確認しているところで、まだ行動を起こすほどの材料は見つけていない──もしかしたら、これが最も納得のいく説明ではないだろうか。

©2021 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バリューアクト、セブン&アイ取締役候補者に賛成票投

ビジネス

欧州は中国から産業利益守るべき=仏財務相

ビジネス

追加利上げ、今年中に「ないともあるとも言えない」=

ビジネス

日経平均は4日ぶり反発、米株先物の底堅さが支援 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中