最新記事

中国経済

中国経済の失速に歯止めをかける「2つのD」とは?...「日本を教訓」にできるか

CHINA MUST AVOID A DEBT-DEFLATION SPIRAL

2023年9月11日(月)12時48分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
中国人民銀行

中国人民銀行には負のスパイラルを止めるための決断が必要だ BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<消費者物価指数がマイナス、巨額の債務が増える中国。インフレを心配しているようだが、むしろ心配すべきことは長年日本が経験してきた「デフレマインド」>

今の中国経済は、その潜在的な成長力を発揮していない。投資と消費需要が期待値を下回っているだけでなく、「2つのD」という難題に直面している。デフレ(deflation)と債務(debt)だ。

消費者物価指数は7月に2年5カ月ぶりにマイナスとなり、生産者物価指数は1年近くマイナスが続いている。一方で、官民とも巨額の債務を積み増してきた。背景にはコロナ禍による支出増と、以前からの金融緩和による広範な影響がある。

2つのDは有害なペアだ。デフレは債務の実質的価値を上昇させ、企業の資金調達を妨げる。そのため経営破綻の恐れが増す。しかもデフレと債務のペアが定着すれば、悪循環が生じかねない。需要減から投資減、生産減、所得減へつながり、結果として一層の需要減に陥る恐れがある。

この危険なスパイラルは、政策立案に2つの影響をもたらす。デフレマインドを抑制するには、総需要を刺激してインフレを促すことが急務となる。

しかし債務増だけに頼ることは避け、むしろ積極的な緩和策を講じるべきだろう。例えば、中央銀行が国債を購入して保有するなどだ。

もちろん中国当局は、数々の景気浮揚策を進めている。住宅ローン金利の引き下げ、不動産開発企業への資金調達制限の緩和、消費支出の増加を狙っての株価対策などだが、今のところ成果は芳しくない。

それなのに、中国人民銀行(中央銀行)が流動性を大幅に高めるような金融政策は取られていない。背景には、以下の4つの考え方があるようだ。

高インフレの引き金になる、さらなる緩和の余地はない、金融刺激策の効果は限定的、ドルなどの主要通貨に対して人民元安がさらに進む......。だが、この4つはどれも見当違いと言える。

まず、インフレは心配すべきではない。既に多くの部門に、価格と名目賃金が下がるという逆の問題が起きている。消費者や企業は価格の下落を予想すれば購入を先送りし、さらに需要を減らす。優先すべきなのは、債務デフレのスパイラルを未然に防ぐことだ。

第2に、既に低金利だから金融緩和は難しいという考えも間違いだ。中国当局が認めるように、金融機関の預金準備率をさらに引き下げることは可能だ。いま市中銀行では7.6%で、アメリカの0%や日本の0.8%より高い。

第3に中国人民銀行は今も、2008年に起きた金融危機後の先進国の中央銀行のように大量の国債を買い入れ、商業銀行の貸し出しの流動性を高めることができる。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備

ワールド

アングル:EU市民の生活水準低下、議会選で極右伸長

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中