最新記事
インタビュー

日本はSDGs浸透度「世界一」、この武器をどう使うかが次の課題だ──蟹江憲史教授

2023年12月21日(木)18時00分
森田優介(ニューズウィーク日本版デジタル編集長)

蟹江憲史

Photo:遠藤 宏

――日本の一番の課題は政策面ということか。

日本の社会は、お上が動かないとなかなか動かないようなところがある。いろいろなアンケート調査結果を見ても、SDGsをすでにやっている人や会社は一定程度あるが、なにかきっかけがあればやりたいと思っている人も多い。

その背中を押すのは政府の動き。政府が本気になって、この分野で国際的な標準化を取りに行くとか、成長のコアの部分に据えるとか、そういう話がまだ出てきていない。SDGsの本質は経済成長戦略なのです。

――政策面以外に、SDGsのこの分野は日本が進んでいる、あるいは遅れているといった特徴を教えてほしい。例えば、ジェンダーの問題などは日本は弱いと思うが。

そうですね。ジェンダーは弱い。あとは環境分野も、あまり強くないという認識になってきている。昔の日本は環境技術が進んでいたが、ここ20年ぐらいで、ヨーロッパや中国に追い抜かれてしまった。気候変動対策でも、遅れているとされている。

一方で、教育は日本で最も進んでいる分野と言っていいかもしれない。SDGsに関しても、今では小学生や中学生のほうが、大人よりむしろ詳しかったりするし、ジェンダー教育も進められている。

ほかには、国民皆保険制度がある保健分野。まちづくりや建築なんかも、進んでいると思う。断熱に補助金が出たりしているが、それだけでは不十分。例えば、断熱と同時に、そこで働く人の働き方やジェンダーの取り組みもパッケージにしてだすなど、(SDGsの取り組みを)応援する政策がもっと必要だ。

これまでのように「鉄と車」で勝負するというような方針が、たぶん通用しなくなっていくだろう。自動車業界で言っても、今後のエネルギーシフトを考えると、完全なEVシフトではなくハイブリッドも必要と、日本の自動車会社などは主張しているが、もっと発信の仕方を工夫する必要があると思う。人々の頭の中が軒並みEVとなっているヨーロッパからすれば、「いまだにハイブリッド?」と思われてしまうかもしれない。

エネルギー転換や製造工程での資源循環とパッケージにして打ち出すとか、そこまでやれていないのが日本の弱み。政策をどこまで巻き込めるかがカギになるのではないか。

企業の人たちはわりと危機感を持っていて、今は企業の取り組みのほうがむしろ進み始めているが、それだと点にしかならない。点を線に、線を面にしていくために、やはり政策の力が非常に重要だと思う。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中