最新記事

キャリア

元IBMの企業戦士、定年後に「保育士」を選んだ理由とは?

2019年4月25日(木)18時00分
吉田 理栄子(ライター/エディター) *東洋経済オンラインからの転載

IBMには「栄光ある不満(Glorious Discontent)」という言葉があるが、会社の制度や仕組みがおかしいと思ったら、手を挙げて提案する「創案制度」があった。髙田さんも営業所時代に感じた製品情報の一元管理について提案したところ、本社製品部門の中に新しい部門が新設され、自ら新部署で課題解決に取り組んだ。

「どんな職場にも問題はある。IBMでも仕組みのおかしいところを発見して改善してきた。そういう意味では、保育士も部門の1つにすぎない。IBMはお客さま満足度を大切にしているが、保育士の仕事は究極のお客さま満足度だと思っている。提供するサービスが変わっただけで、やっていることは同じなんです」

近い将来保育園が余るときがくる

img_eeeef92a135cdf058f8a14f0a5a0cf44376572.jpg
子どもたちが使っている折り紙の枝や桜は髙田さんの手作りだ(撮影:今井康一)


髙田さんに言わせると、日中の顧客は子ども、朝夕は顧客が送迎に来る保護者に変わるのだという。

「これから幼児教育が無償化されるとまたしばらく保育園が不足するかもしれないが、近い将来、必ず保育園が余り淘汰される時代がくる。そのときに必要なのは、保育園のブランド力。

それにはお客様満足度と社員満足度が必要不可欠になる。職員の満足度の低い保育園は、お客様の満足度まで気が回らない」

そのために保育士の満足度を上げていくのが大切だという。保育士の現場は人手不足だと言われるが、「保育園は、もっとAIやロボットを使って効率化できる。私が銀行を担当していたとき、営業支店にビデオカメラを設置して、行員の指先を撮影し、無駄を分析して業務改善した。

img_b826987e697e777e902102cae69b9b7e599316.jpg

髙田勇紀夫(たかだ ゆきお)/保育士。1951年千葉県生まれ。1974年3月東京都立大学経済学部卒業(現・首都大学東京)。同年4月日本アイ・ビー・エムに入社。SE、営業課長、常務取締役補佐、富山営業所長、業務改革推進担当、北アジア太平洋地域の需給管理担当、アメリカIBMでオプション・モニターの需給管理担当、社長室CS(お客様満足度向上)担当、ビジネス・コントロール(内部統制)担当などを経験し、2011年12月に定年退職。2017年4月より都内の認可保育所で保育士として勤務。著書に『私の履歴書:Enjoy my Business ! Enjoy my Life ! 』(2011年出版)、『じーじ、65歳で保育士になったよ』(東洋経済オンライン編集部撮影)

保育園では、子どもたちは食べこぼしが多いため、保育士たちはひっきりなしに床掃除をしているが、それは外で遊んでいる間に機械で代替できる。

日々の連絡帳記入も、全員一緒の内容についてはフォーマット化できれば、一人ひとりの子のコメントにもっと注力でき、保護者の満足度を上げることができるし、保育士の業務も軽減できる。

保育園もイノベーションを起こさないと時代に取り残されるときがくる」

保育園にはまだまだビジネスチャンスがある、と現場の改善に意欲を燃やす髙田さんだが、今のいちばんの喜びは「じじせんせーい」と子どもたちが駆け寄ってきてくれること。

子どもたちとの笑顔の触れ合いという何物にも代えがたいやり甲斐があるからこそ、髙田さんは今突き動かされている。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

介入有無にはコメントせず、政府関係者が話した事実な

ビジネス

3月実質賃金2.5%減、24カ月連続マイナス 減少

ワールド

EU、ロシア凍結資産活用で合意 利子でウクライナ軍

ワールド

香港民主派デモ曲、裁判所が政府の全面禁止申請認める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中