最新記事

インタビュー

出口治明「社会的責任を叫びながら、いざ不祥事になると平気で居座る経営者はおかしくありませんか」

2020年4月3日(金)11時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Newsweek Japan

<SDGsの時代、社会への還元が求められているが......。欧米の寄付文化から、日本の攻撃的ナショナリズム本まで。「労働と信用」「カネと信用」について立命館アジア太平洋大学の出口学長に聞いたインタビュー最終回>

貧困をなくす、ジェンダーの平等を実現する、働きがいと経済成長を両立する、など17の目標を掲げるSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択され、いま世界的にも自社の利潤追求だけではなく、社会に利を還元する企業活動が尊ばれるようになってきている。

経済記者である栗下直也氏が、「ビジネスと信用」の切り離せない関係について解説した『得する、徳。』(CCCメディアハウス)によると、米国最大規模の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は、昨年、約50年の歴史の中で初めて株主至上主義を廃止すると発表し、その声明には「米国資本主義の権化」と見られるような大企業までもが署名している。

声明は公正な給与を提供すること、地域社会を支援すること、下請けなどに対して倫理的態度を取ることなどを新たな優先課題として位置づけており、このことは「会社は株主の利益を追求する道具である」という思想に新たな視点を投げかけたと言える。

『得する、徳。』の刊行を記念し、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長に社会人として働く心得を聞く3回連載の最終回は「儲かった人は寄付しなきゃいけないのか」。

※インタビュー第1回:出口治明「日本は異常な肩書社会。個人的な人脈・信用はなくても実は困らない」
※インタビュー第2回:出口治明「人間は皆そこそこに正直でかつずる賢いしお金に汚い。基本的には信頼するしかない」

◇ ◇ ◇

――海外では、巨額の報酬を得ている経営者が積極的に寄付をしています。一方、日本の経営者はあまり寄付しないという批判もありますが。

海外はキリスト教が根付いていますからね。キリスト教はイスラム教と同じで、金儲けが嫌いなんですよ。ユダヤ教は金儲けに対してそれほど厳格ではなかったのですが、キリスト教とイスラム教は「神様は金儲けが嫌い」という教義をつくりました。だから、中世のヨーロッパでは、キリスト教徒は金融業に従事できなかったのです。

ところが、ローマ教皇が気付いてしまった。ユダヤ教徒はえらく金儲けをしているじゃないか、と。そこで、キリスト教徒に金融業を認めれば、彼らも金持ちになって、ローマ教会にもっとお布施を持ってくるかもしれないと。

ただ教義で、金儲けはあかんと言ってしまっているので、そこを工夫する必要がありました。ローマ教会はキリスト教徒の商人にこうささやいたのです。金融も利子も許す。本来は神様が嫌っていることを、特別に認めてやるのだから、その代わりに儲けたら寄付しないと、地獄に落ちるぞと脅したのです。

だから、まず教会へたっぷり寄付して、それだけでは足らないので地域などにもたくさん寄付するという文化が生まれたわけですよ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

シンガポール航空機、乱気流で緊急着陸 乗客1人死亡

ビジネス

トヨタ、米テキサス工場に5億ドル超の投資を検討

ワールド

米国務長官「適切な措置講じる」、イスラエル首相らの

ビジネス

日産、米でEV生産計画を一時停止 ラインナップは拡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル写真」が拡散、高校生ばなれした「美しさ」だと話題に

  • 4

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 5

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 6

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中